異例ずくめのレコード輸入権騒動
私は、一応法律の専門家ですから、法律に関する諸々の事象について基礎知識はあるつもりなのですが、今回のレコード輸入権騒動は非常に異例です。
まず、法律の概要として公表されていることと法律案の文言との間に瑣末的でない齟齬があるという点があります。文化庁は、「海外生産の邦楽CDの日本国内への還流」を禁止できるようにする法改正を行うかのような説明をしているようですが、提出される法律案は、「海外生産の音楽CDの販売目的での日本国内への輸入」一般を禁止することができるようにするものであるようです。「海外生産の洋楽CDの日本国内への輸入」は禁止されないというのは、せいぜい文化庁関係者の希望的観測でしかないわけです。このような官僚の希望的観測に過ぎないものをあたかも改正法案の内容に組み込まれているかのように説明している例を私は知りません。
また、中央官庁が法案提出前にパブリックコメントを求めるようになって以降、パブリックコメントとして寄せられた意見の概要をまとめたものを公表するというのが慣例でした。多岐に渡る論点についてパブリックコメントを求めておきながら、その中の2つの論点について、賛成意見の数と反対意見の数だけを公表するにとどめ、改正案をそのまま法案として提出してしまおうとした例を私は知りません。しかし、昨年の12月24日締切りのパブリックコメントについては、レコード輸入権の創設と書籍貸与権の創設に関する賛成意見と反対意見の数しか公表されていません。
文化庁としては賛成意見の数と反対意見の数を知りたいだけだったのならば、そのように言ってくれれば、「まとまった意見を書くのは出来ないけれども、賛否は表明したい」という人々がそれぞれの法改正に対する賛否を表明したのではないかとも思います。しかし、少なくともレコード輸入権の創設に反対するような人々には、文化庁のそのような意図は伝えられなかったようです。
また、国の基本政策に真っ向から反対するような法改正が、特定の業界からの要請で、あっさりなされてしまうというのも異例です。規制緩和を行い、競争を促進して、小売価格を引き下げ、内外価格差を是正して、国民経済に利益をもたらすということが10年来の日本政府の基本政策となっています。しかし、レコード輸入権の創設というのは、内外価格差を法律の力で維持することが唯一の目的です。アメリカの約2倍という価格差を全ての国民に押しつけることこそが制度の目的です。他の「規制」と異なり、小売価格の高値維持による特定業者の保護以外に何の目的もありません。
規制緩和を求めて様々な提言を行ってきた経団連も、会員企業が内外価格差を維持するための規制創設を求めたら、押し黙ってしまいました。情けないの一言です。
また、明らかにわかる嘘を誰も指摘しようとしないというのも異例です。2月16日付朝日新聞朝刊によれば、「レコード協会は『全世界を市場とする欧米会社が、販売地域を限定したCDを発売することは考えにくく、実質的に還流禁止の対象にならない』としている」とのことです。しかし、全世界を市場とするからこそ市場を分割しようとする、というのが世界の常識です。だから、レコード輸入権が創設されたら、全世界を市場とする欧米会社が販売地域を限定したCDを発売することは容易に考えられます。日本における並行輸入に関する訴訟が「全世界を市場とする欧米会社」の商品について行われてきたこと、DVDにおいて「リージョンコード」が設けられたのは「全世界を市場とする欧米会社」の意向に基づいていることなどを考えても、「全世界を市場とする欧米会社が、販売地域を限定したCDを発売することは考えにくく、実質的に還流禁止の対象にならない」なんていえないことは、簡単にわかることです。
Posted: (火) - 2 17, 2004 at 02:08