悪人には正義の鉄槌を! というわけで、今回009たちが迫完二氏に下した制裁は、“悪い事しちゃダメだよ、と教え諭して家に帰す”ではなく“警察に引き渡す”であったようだ。警察を呼んだのは迫氏本人だったと思えるが、009たちがそれを引き止めるでもなく他人事のようにのんびり見送っているのは、迫氏は警察に捕まるのが妥当である、と正義の味方的に判断した結果であろう。
その是非は置いといて、問題は迫氏の罪状である。ギルモア博士を狙撃しようとしたり(殺人未遂)、村人を追い払ったり(威力業務妨害?)もしてるようだが、“余罪”ってことで、ここでは触れない。ついでに最終段階である“東京水浸し”については未遂に終わっているので大目に見る。(ていうか、煩雑になるので省略しました。大目に見てください)
で、要するに山奥に氷河を作るのは犯罪なのか、という事になるのだが、法治国家日本における犯罪とは、“刑法その他刑罰法規の規定により、刑罰を科される行為”(三省堂『大辞林』より)であり、少なくとも刑法に氷河を作る行為に対する罰則は設けられていないようである。(“その他刑罰法規”に抵触するかも知れないが、調べてないので不明)
現状の法律で氷河を作るのが犯罪でない以上、迫氏は無罪、と言いたいところだがそうでもない。
氷河が形成された結果、東京都内で水不足が起きているのである。
このため、
刑法第147条 公衆の飲料に供する浄水の水道を損壊し、又は閉塞した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。が適用できそうだ。(法律用語がわからないまま書いているのだが、“水道の閉塞”には、“水源地への水の供給を断つ”も含まれると解釈していいと思うのだが、どうでしょう?)
(1)迫完二の関与の程度と、彼が自分の行為の重大性をどの程度認識していたか。まず(1)、迫被告が、何の装置かもわからないまま、計器をチェックして報告していただけ、であれば、 罪を犯す意志もその自覚もないことになり、
(2)ブラックゴースト製冷却装置(以下装置)と氷河の因果関係。
(3)氷河と水不足の因果関係。
刑法第38条第1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ので、彼の罪を問うことはできない。
次に(2)を飛ばして(3)だが、水不足自体は特に珍しい現象とは言えないし、水不足の度に水源地の山奥で氷河が形成されているわけでもないから、今回の水不足は、氷河とは無関係なごく普通の自然現象だった、と主張することは可能だ。(迫被告の罪は要するに“水不足を引き起こした”事に尽きるし、水不足が自然現象なら、自然現象を法律で裁くことはできない)
水源地の水が全部凍っちゃってるわけだから、関係ないわけないとは思うが、冒頭で氷河と水不足の関連を“調査”しているということは、少なくともこの時点では、科学的には関連がはっきりしていないからだろう。
とはいえ、ここで屁理屈をこねても裁判官の心証を悪くするだけなので、氷河と水不足の因果関係は立証されるものとして、次行く。
さて、(2)である。迫被告が実際に行っていたのは装置の管理であり、迫被告を有罪にするためには、迫被告が管理していた装置が実際に氷河形成の原因になっていたことを立証する必要がある。(氷河と水不足の因果関係は、すでに“立証”された)
氷河の形成が単なる自然現象である、と主張するのはさすがに無理があるが、氷河を作る装置が存在しているという仮定(立証されない限りは仮定にすぎない)にも、同じぐらい無理がある。長さ30km、厚み最大200mに達する氷河を作り、それだけの量(幅がわからないので具体的な数字は割り出せないが)の氷河をほとんど瞬間的に溶かしたり、再び凍らせたりする装置が実現可能と考えるのは、日本の山奥に自然現象で氷河ができたと考える以上に非常識といえる。
装置の動作原理や氷河形成との関係については、専門家の鑑定に委ねられることになるが、裁判の時点で装置が無傷で残っているとは考えにくく(ブラックゴーストは、どんなに間が抜けていても、自爆と処刑だけは忘れない組織のはずである)、その解明は困難を極めるだろう。
ていうか、偉大なるブラックゴーストの非常識な“超”科学技術が常識に縛られた並の科学者に理解できるわけがないのである。(常識に縛られない“超”科学者(例えばギルモア博士)なら理解できるかも知れないが、そういう科学者は法廷には呼ばれないものである)
理解できないものに対処する一番簡単な方法は、それを否定することである。
したがって、装置の鑑定を依頼された専門家は、以下のような結論を出さざるを得ない。
「確かにこの装置は、何らかの冷却システムを備えていることに間違いはありません。言わば、巨大冷蔵庫ですな。しかしながら、この装置が最大出力で稼働したとしても、長さ30kmもの氷河が形成されるなどということは、常識的にあり得ません。科学の法則に反します。もし、そんなことがあり得たら、私は科学者としての肩書きを捨てますよ。したがって、氷河の形成とこの装置は無関係であります」
そんなわけで、氷河と装置との因果関係が否定されてしまった以上、氷河の形成は装置の動作とは関わりのない自然現象であり、氷河が原因の水不足もまた、自然現象である(と、裁判所的には認定するしかない)。したがって、正体不明の人物から報酬を受け取ろうが、怪しげな装置を管理していようが、それを理由に迫被告の行為を裁く根拠はない。
かくして、迫完二氏は無罪放免、晴れて自由の身となるのであった。めでたしめでたし。(迫氏がタダシ君を育てていく自信を失ったから自首を決意した、などという鬼畜な考えは、私にはこれっぽちも脳裏をよぎったりはしなかったのだが、釈放されたからといって絵が売れるわけでもなく(スカール閣下なら気に入りそうな気もするが)、裁判の間おばさんに預けられていたタダシ君は、迫氏釈放後、誰に育てられることになるんだろうか?)
迫氏については無罪確定ってことでいいとして(異議のある人は控訴して下さい)、ブラックゴースト(らしき組織)は一体何をしたかったのだろうか。
ブラックゴーストを信奉しているわけでもない一民間人をこのような計画に巻き込んでも、警察や正義の味方に通報される等による計画失敗のリスクが増大するだけで、何のメリットもない。(例えば、迫氏が実は気象学の専門家で、あまりにも異端な研究をしていたため学会を追放されて、今は売れない絵で生計を立てている、とかなら納得できるが)
一民間人を脅して札束を放り投げてる暇があったら、自分たちで装置を管理した方がよっぽどいい。要するにやる気が感じられない。
ていうか、別にやる気がないわけではなく、ブラックゴーストの真の目的は、“東京水没”ではないのだ。
異常気象、その中心にある巨大な装置、正体不明の人物から報酬を受け取っていた民間人、これらの事実を広く世間に知らしめ、得体の知れない社会不安を醸成する。これこそがブラックゴーストの真の目的である。したがって、迫氏の“裏切り”はブラックゴーストの用意したシナリオに織り込み済みだったことになる。
恐るべし、ブラックゴースト!!!
(社会不安をあおってどうするのか、そこまでは私にもわからない)
ところで、鉄砲水の発生に関しては、不用意に大蛇ロボと戦端を開いた009たちに責任がある。迫氏の尽力で被害がなかったからいいようなものの、これがどのぐらいの罪かというと、
刑法第119条 出水(azinori注:この場合は鉄砲水)させて、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車又は鉱坑を浸害した者は、死刑又は無期若しくは三年以上の懲役に処する。だそうである。
(2002/7/9)