通常、細菌は、生きた細胞の中でしか生きられないものだ。だがしかし、この細菌は、ミイラに巣くうバクテリアの細胞の中に潜み、じっと息を殺して眠っていたと思われる。そう、この細菌は生きている。遥か三千年の眠りから目覚めた新たな細菌――言うなれば、ファラオウイルス!要するにファラオウイルスは、ウイルスなのか、細菌なのか、どっちやねん、と問いたい。(ファラオ“ウイルス”というぐらいだから、ウイルスだろうけど)ドクター・ハーシェルの検査ノートより――ウイルスは生きた細胞の中でしか生きられませんが――これはミイラに巣くっているバクテリアの中で生きのびてきたのです…! ――名づけて、『ファラオ・ウイルス』!!
メディア・ファクトリー Shotaro World 『サイボーグ009』
23巻49ページより
さいきん【細菌】
単細胞の微生物で、核膜のない原核生物の一群。球状・桿状・螺旋(ラセン)状などを呈し、葉緑体・ミトコンドリアなどをもたない。原則として二個に分裂してふえる。動植物に対して病原性をもつものもあるが、広く生態系の中にあって物質循環に重要な役割を果たしている。分裂菌類。バクテリア。バクテリア bacteria
細菌。ウイルス Virus
最も簡単な構造の微生物の一種。蛋白の膜で包まれた核酸の分子。核酸としてDNAかRNAのいずれかをもつ。大きさは一◯〜三五ミリミクロンで細菌濾過器を通過する。動物・植物・細菌を宿主とし、生きた細胞内でのみ増殖。ウィルス。ビールス。バイラス。濾過性病原体。バクテリオファージ bacteriophage
〔バクテリアを食う意〕細菌に感染して菌体を溶かして増殖するウイルスの総称。核酸と少数の酵素を蛋白質の殻でつつんだ簡単な構造をもち、それぞれ特定の細菌種にのみ感染する。ファージ。細菌ウイルス。三省堂「大辞林 CD-ROM版」より
さて、アレクサンドリア商会なる組織は、エジプト紅花から得られるファラオウイルスのワクチンで大儲けを企んでいるようだが、ワクチンとは、弱毒化(毒性を弱めた生きた)もしくは不活化した(死んだ)病原体(この場合はファラオウイルス)である。
毒性の弱い病原体を“感染”させる(つまり、ワクチンを接種する)ことで、その病原体に対する免疫ができる。一度免疫ができてしまえば、以後、毒性の強いもとの病原体に感染しても、体内の免疫機能によって、病原体は速やかに排除される。これが要するに予防接種であり、1796年に、ジェンナーというおじさんが、当時猛威を振るっていた天然痘の予防策として牛痘(牛の天然痘で人間にも感染するが死ぬほどではない。これに感染すると天然痘にかからない。毒性の弱い天然痘と言える)を接種することを思い付いたのが始まりである。(ワクチンの語源は、牛痘 Vaccinia である)
エジプト紅花からワクチンが得られるということは、毒性の弱いウイルス株(天然痘に対する牛痘みたいなもの。ファラオ-B・ウイルスと命名しとく)が紅花に“感染”しているのかもしれない。だとしたら、ファラオ-Bと紅花は、三千年間にわたって共生を続けてきた事になる。
ちなみに、すでにウイルスに感染・発病している患者にはワクチンは効果がない。だから、ドクター・ハーシェルが回復したのは、本人の体力と医療スタッフの努力の結果であって、003の活躍とは関係ないはずである。(致死率100%のウイルスなんて滅多に無いと思う。エボラウイルス(ザイール種)でも90%ぐらい、感染者の十人に一人は生きのびる(十分怖いけど))
すでに感染しちゃってる患者に対する特効薬としては、病原体を直接“殺す”ことのできる抗生物質が考えられる。(今回の話、“ワクチン”を文字通りの意味では使ってないっぽいが、多分気のせいだろう)
それにしても、イマドキの若いお嬢さんが何を考えてるんだか、わしゃあ、さっぱりわからんのですが。(003が“イマドキの”かどうか議論の余地はあると思うが)
とにかく今回の003、敵の本拠地のど真ん中で「戦いたくない」とごねていた彼女と同一人物とは思えなかった。
確かに、ミュートスサイボーグとの戦いや異次元の子供たちとの出会いを経た今、003の“戦い”に対する考え方が以前とは違うのは当然といえば当然なのだけど、今回の彼女の行動は、積極的というより無謀というかヤケクソにしか見えない。それなりの汎用性(つまり戦闘能力)はあるにしても、基本的に彼女は後方支援型のサイボーグのはずである。(だからと言って、必要以上に弱々しく描くべきだとも思わないが)
何が彼女に起こったか、を描かなければ、003の活躍も意味がない。(原作の“夢のお告げ”や推理モノ風な味付けを切り捨てているのだから、なおさらである)
大切なものを守るためには戦わなければならない。そして、彼女には、(彼女自身が望んだわけではなくとも)その能力がある、みたいな部分がちゃんと表現されていれば、ファラオウイルスが細菌であっても文句は言わないのだが。
例えば、地元の女の子と友達になる、みたいな描写があってもよかっただろうし、ギルモア博士がウイルスに感染してもいい(爆弾を使ってウイルスをばらまく計画をたてていたことを考慮すれば、ファラオウイルスは空気感染するはずで、ドクター・ハーシェルと接触のあったギルモア博士にも感染の可能性はある)。出血大サービス(?)で009も感染させちゃえば(サイボーグとはいえ、ある程度は生体部分も残っているだろうから、感染の可能性皆無とは言えない)、003の行動も無理なく描けるし、孤独な戦いを強いられる003なんてシチュエーションになって、9ファンも3ファンもお祭りできたような気がするがどうだろうか?(他のメンバー及びドルフィン号なんか出なくていいと思う。ていうか、神より怖い方面の方々に気を使いましたか?)
ちなみに、003だけがファラオウイルスに感染しなかったのは、地元の女の子に一輪のエジプト紅花をプレゼントされたからである。
ところで、サイボーグ戦士たちは、アレクサンドリア商会の皆さんを拘束するが、その後、どうしたのであろうか。
(イ)皆殺しにした。
(ロ)地元の警察、または国連に引き渡した。
(ハ)米国に引き渡した。
(ニ)「悪いことをしちゃダメだよ」と教え諭して、家に帰した。
さすがに(イ)ってことはないだろうが、(ロ)は当たり前過ぎて面白味に欠けるし、(ハ)はアメリカに『009』を売り込むんなら媚は売っときたいところだがどうかと思うし。
ということで、「幽霊島」の公式見解は (ニ)にしておきます。
(2002/6/25)