第33話 結晶時間

 

 

 実はあまり自覚がないのだが、「観察日記」はアニメ版の感想も取り扱っているらしいので、たまには、ごく普通の感想も書いておくことにする。
 感想。
 今回のこういう話は好きだ。
 感想おしまい。
 

 さて、テレビ東京ホームページのキャラクター紹介によれば、009は加速時に“地上をマッハ5で駆ける”事ができる。
 マッハ1は音が伝わる速さであり、空気中では秒速340m(1気圧、気温15度Cの場合。ここではこの数値で計算する)、マッハ5は秒速1700mとなる。
 マッハ5は、あくまでも加速状態にない通常の時間軸にいる観測者から見た速度である。009にとっての加速装置は、自分が速く動けるというより、周囲の動きが遅くなる(と感じられる)装置であり、009自身の感覚では、“ごく普通に”全力疾走しているに過ぎない(はずだ)。
 009が100m10秒(秒速10m)で走れるとすると(オリンピック選手並だが、そこそこ妥当な数字だろう。計算もしやすい)、マッハ5で1秒間に進む距離である1700mを走るのに、加速時の009の主観(009時間と呼ぶことにする)で170秒かかる(スタミナ切れは考慮しない)。したがって、通常の時間軸(以下通常時間)での1秒=009時間の170秒である。
 
 
009時間
通常時間
1秒 0.00588秒(1/170秒)
1分 0.352秒
1時間 21.2秒
1日 8分28秒
1ヶ月(30日) 4時間14分7秒

 そんなわけで、009の孤独な一ヶ月は、実際には4時間そこそこしかたっていなかったことになる。とはいえ、003が閉じたまぶたを開いたり、ギルモア博士が手紙を書き終えたり、女の子が爆発に巻き込まれたりするのには、4時間は十分過ぎる時間である。
 このような無益な考察によって、罪の無い女の子を死に追いやるのは気が引けるものの、公式設定である(はずの)“マッハ5”も遵守したい。折衷案として、一時的に加速装置に動作異常が起こっていた事にする。
 009が目覚めた瞬間から女の子が爆発に巻き込まれるまでの時間を通常時間で1秒と見積もると、女の子を助けるためには、通常時間の1秒=009時間の1ヶ月(30×24時間×60×60=2592000秒)でなければならない。この場合、(通常時間で計測した)009の最高速度は秒速25920km(マッハに換算するとマッハ76235。加速装置の異常によって、通常の15000倍以上の出力を出していたようだ。ギルモア博士は一体どういう整備をしてるんだか……)。
 ちなみに、この速度は光速(秒速約30万km)の8.6%に相当し、009は間違いなく相対性理論(すなわち物体の速さが光速に近づけば、質量は増加し、時間の進み方は遅くなる)の影響を受ける。(そうするとどうなるか、なんて私にわかるわけがない)
 そう言えば、009 vs アポロンの加速戦で大爆発が起こっていたが、あの有名な式、E=mc2 に関係する物理現象だったのかも知れない。(どこがどう関係しているか、なんて私にわかるわけがない)
 

 ここで仮説を一つ。
 いくら空気抵抗があるとはいえ、009が投げた石がほとんど瞬間的に停止してしまうのは不自然である。この事実は、加速装置が単に速く動ける(あるいは神経伝達速度を高速化する)装置ではないことを示唆しているように思える。
 加速装置とは、通常時空間の物理法則に縛られない“加速空間”とでも呼ぶべき場を生成する装置である、と仮定する。(これを“加速空間仮説”と呼ぶ)
 石は加速空間から通常空間に移行したために投げた直後に(009から見て)停止し、紙は空気との摩擦ではなく(009は加速装置の原理をよく理解していないのであろう)通常空間から加速空間への移行時の負荷によって燃え、タンクの水は、009がタンクを破った時に一瞬だけ加速空間に取り込まれたために、ほんのちょっとだけタンクから飛び出した状態で停止したのである。ついでに、加速した009が一歩歩けば衝撃波が起こり……という事態も、この加速空間仮説によって回避できる。(通常時空間の物理法則に縛られないので、非常に便利である)
 このように  こじつけると  解釈すると、誰もが(特に制作スタッフが)忘れたがっている“加速装置の使用制限”にもわずかながら光が差す。
 加速による負担がもっとも大きいのは、通常空間から加速空間、加速空間から通常空間への移行時であり、“加速装置の使用制限”とは、加速装置を長時間にわたって使用し続けることではなく、連続的に加速装置のオンオフを切り替えることができない、という意味であったと思われる。0010との戦いの時点では、加速空間を長時間にわたって維持できるだけの出力(?)を加速装置が持たず(おそらく一定時間が経過すると、自動的に加速状態が解除される)、結果的に繰り返しスイッチを入れなければならなかったのであろう。
 しかし、ギルモア博士のたゆまぬ努力によって、(実時間で一秒だか四時間だかよくわからないが)009時間で一ヶ月間も加速空間を維持可能になった現在、事実上“加速装置の使用制限”は無くなったと見なしてもいい。
 

 ところで、1話、2話辺りでは、001が加速中の009に話しかける場面があったはずだが、今回はどうしちゃったんだろうか?
 まさか、気が付いていながら狸寝入りを決め込んでいたのでは……。
 

(2002/6/22)

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