私的004論


 全国一千万の004ファンから炭疽菌添付メールが送られるのを覚悟で言ってしまうと、004は機械人形である、と思う。
 いや、私が思っているわけではない。004自身が自分のことを機械人形である、と定義付けているように思うのだ。
 だから、004には、「奴も俺たちも所詮は機械人形、兵器なんだ。同情なんかする必要はない」ぐらいのことは言って欲しかったし、シリーズを通してメンバーの中でのヒール(憎まれ役)の役割を担ってくれることすら期待していた。

 004、本名アルベルト・ハインリヒ。東ベルリンからの亡命中に恋人ヒルダを死なせ、自らも重傷を負って(アニメではどう見ても重傷には見えないが)、ブラックゴーストによって全身武器のサイボーグに改造される。
 マトモな神経の人間には、到底受け入れられるような状況ではない。どうすればいいのか? マトモな神経の人間でなければいいのである。
 以下、004の内面をミュージカル風に表現してみました。

俺は機械人形。過去なんか関係ない。
全身武器のサイボーグ? その通り。それがどうした?
恋人が死んだって? ああ、死んだとも。それがどうした?
そんなことを気にするのは、人間のすることさ。
俺は機械人形。ラララ、人間じゃない♪

憎しみ? 怒り? 悲しみ? 愛?
そんなものは人間にまかしとけ。
兵器に感情は必要無い。
兵器に感情は邪魔なだけ。
俺は機械人形。ラララ、人間じゃない♪

だけど。
時々あの日を夢に見るのはなぜ?
思い出の指輪を捨てられないのはどうして?
心の底にくすぶり続ける怒りの炎のそのわけは?

俺は機械人形。ラララ、人間じゃない♪ ……はずだ。


 要するに004は、機械人形として自分を定義付けることで、過去から目を背け、内面の感情を押さえ付けているに過ぎない。彼は自分を兵器だと思っているから、死ぬことも恐れない。(むしろ、死に場所を探しているのかもしれない) 恐れないから、常に戦況を冷静に判断できるし、だから生き残る。
 その彼があるひとつの出合いをきっかけに、過去と向き合い、人間性に目覚め、まぎれもない人間であることを再確認する、そういう展開を期待してました。
 少なくとも、一年間のスパンを考慮した上でストーリーを組み立てることができるのなら、大河ドラマ的なダイナミックな人間像を描くことができたのではないかと思うのだが。

 もちろん、以上は「私の004」である。
 原作においても、掲載時期によってその性格付けは微妙に異なっているわけで、思い入れのある004像も人によって違う。全てのファンが納得できる004像なんて無理な話だ。だから、アニメ版の製作スタッフが選択した004にケチをつけるのは、野暮なことだとも思う。思うのだが、だからってまるっきり新しい004像を作らなくても……。(泣)
 004の魅力の本質は「優しさ」ではなく、「冷たい仮面の下から垣間見せる優しさ」であるはずなのに(この点だけは同意してもらえると思う)、平成アニメ版004は、妙に人間ができているというか、思いやりに溢れていて、挙げ句の果てに009に慰められている。
 余計なことだが、009の「知らないから戦えた」という発言もヘンである。何を知らなかったのだろう? 0010が双子だってこと? 死ななければ触れあうこともできないってこと? 知っていたら戦わなかったのか? あの状況下で?
 戦うこと(戦争も含めて)の悲劇は、『サイボーグ009』の重要なテーマのひとつだと思うが、アニメ版ではこの点を前面に出そうとし過ぎて、かえって中途半端なものになっているように見える。こういうのは、隠し味的に使った方がはるかに効果があると思うのだが。
 ともかく、平成版004は、「私の004」ではなかった。それだけ。どこにも存在しない「私の004」をこれ以上語っても意味はないのでやめる。

 では、これほどまでに004の人格に深刻な影響をもたらしたのはなんなのか。
 やはりベルリンの壁崩壊以外に考えられない。(こればっかりだ)

 004にとってベルリンの壁とはどんな存在だったのだろうか。
 戦争の象徴であり、憎み合うことの象徴であり、自由の象徴であり、恋人が死んだ場所である。004という人格を形作っているものの大半がここにある。彼は、「ベルリンの壁コンプレックス」である、とも言える。
 そんな彼にとって、壁の崩壊は手放しで喜べることなのだろうか。
 壁は、憎しみの対象でもあったはずだ。(上で書いたことと矛盾するような気もするが、人間は矛盾した生き物である)
 逆説的だが、憎しみ続けてきたものを失うということは、それは、とても寂しいことのような気がする。(シャア少佐も「虚しくなった」と言っていたと思う)

 ていうか。
 今回のアニメ版の004、壁が崩壊したこと知ってるのか?
 新設定によれば、五十年間眠っていたわけで、壁の崩壊は眠っている間の出来事だろう。また、004の感覚にとっては、ヒルダの死んだのはつい最近の出来事のはず。ドイツだのベルリンだのの話題は、意識的に遠ざけたとしても不思議はない。つまり、004はいまだに壁崩壊の事実を知らない可能性大である。(敵に同情してる場合じゃないぞ、004!)
 下手すると、故郷に戻った004が、「か、か、か、壁がーっ! どこ行ったんだーっ、壁」なんて絶叫しながら、壁を探して這いずり回る、なんてことに……。

 なんか、自分の妄想に泣けてきちゃったんですけど。
 
 

(2001/11/19)