Message from 『宇宙からのメッセージ』
ロクセイア12世(成田三樹夫)とその母・天本英世(死神博士)が率いるガバナス帝国の侵攻によって壊滅の危機に瀕する惑星ジルーシア。もはや自分たち
の力ではどうにもならぬ、と長老キドが八つのリアベの実を宙に放つと、ああら不思議、リアベの実は、伝説の勇士を求めて宇宙の彼方へ。ジルーシアのお姫
様、エメラリーダ(志保美悦子)もリアベの実を追って宇宙の彼方へ。
で、リアベの実に導かれて集まった8人の勇士――宇宙暴走族のシロー(真田広之)とアロン(フィリップ・カズノフ)、宇宙お嬢様のメイア(ペギー・
リー・ブレナン)、宇宙チンピラのジャック(岡部正純)、地球連邦評議会議長アーネスト野口(丹波哲郎)の旧友にして元軍人のゼネラル・ガルダ(ビック・
モロー)、ロボットのベバ2号(声/曾我町子)、ロクセイアに王位を奪われた白馬の王子ハンス(千葉真一)、そして、エメラリーダの従者ウロッコ(佐藤
充)――は、紆余曲折を経てガバナス帝国を滅ぼして、ジルーシアの人々と新天地を求めて旅立つのでした。めでたしめでたし。
――というお話が展開する映画『宇宙からのメッセージ』は、アメリカで大ヒットした『スター・ウォーズ』に刺激され、原作に石ノ森章太郎(クレジットで
は、“原案”として石森章太郎、野田昌宏(SF考証)、松田寛夫(脚本)、深作欣二が併記されている)、監督にSFとは縁もゆかりもない深作欣二を迎えて
東映が製作した“SF超大作”。“お姫さまを助けて戦う勇者”という神話の時代にまで遡るおなじみのモチーフに古今東西の娯楽映画の面白さをブレンドした
『スター・ウォーズ』に対抗して、日本古典文学の最高峰『南総里見八犬伝』をベースにチャンバラとヤクザ映画(と『スター・ウォーズ』)をブレンドした野
心作である。
この映画、“SF超大作”と銘打っただけのことはあって、特撮は素晴らしい。冒頭のジルーシアが学芸会のセット風だったりとかアレな部分もあるが、当時の日本映画としては最高レベルと言っていいだろう。(だからって『スター・ウォーズ』と比べてはいけない)
シローとアロンの駆る宇宙戦闘機の場面は、今見てもかなり迫力がある。ピアノ線で吊った模型をぶん回した揚げ句に風圧で砂煙が舞い上がり、この手の映像
はオプチカル合成するのが常識になっていたハリウッドの関係者が、「どうやって撮ったんだ!?」と驚愕しただけのことはあるし、デススター、ではなく惑星
ジルーシア内部の狭いチューブ内を滑空する場面は、『スターウォーズ』にも先行していて、多分、世界初であろう。
が、この映画において真に驚愕すべきなのは、そういう部分ではない。
シロー、アロン、メイアの三人が宇宙蛍(その正体は、放射性廃棄物の残滓らしいのだが)を捕まえようと、普段着で素顔に酸素マスクを付けただけの軽装で
宇宙遊泳を始めちゃうばかりか、素手で宇宙蛍(しつこいようだが放射性廃棄物の残滓である)を捕まえようとする場面こそ、『宇宙からのメッセージ』の真髄
と言ってよかろう。
パンフレットには、耐真空クリームだかを塗っているから大丈夫、みたいな苦しい解説がされていた記憶があるが、そんなのは、焼け石に水である。どう考え
ても、監督深作欣二は、SF映画をSF映画足らしめるために何が必要なのかわかっていなかったとしか思えない。というより、最初からSF映画を撮る気など
なかったに違いないのである。
常識的に考えれば、この場面の撮影に臨んで、宇宙空間なんだから、せめてそれっぽいヘルメットぐらい……」と進言した関係者が一人や二人いたはずであ
る。にも関わらず、この進言に、監督深作欣二は動じることもなくこう言い放ったはずだ。「ヘルメットなんかしたら役者の顔が見えねえじゃねーか」と。
この単純明快かつもっともな理論に反論できるスタッフはいなかった。ただ一人、多分SF考証を担当した野田昌宏氏あたりが、深作の袖に取りすがって「酸
素マスクなしじゃ死んじゃうよ。宇宙なんだから。空気ないんだから」と涙ながらに訴えた結果、渋々、酸素マスクだけはすることにしたのであろう。深作的に
は、酸素マスクすら必要ないと思っていたはずである。
いくらかでもSF的素養、それ以前に科学的素養のある人間にとっては狂気の沙汰である。が、このとき深作が見据えていたのは、プロデューサーでもSFマニアでも観客ですらなかった。彼が見据えていたのはジョージ・ルーカスただ一人であったのだ。
深作は、この映画を通して、海の向こうの青二才の若造に知らしめたかったのである。
世の中には、宇宙空間で酸素マスクをつけるより大切なことがあるのだ、と。
すなわち、
「借金の返済」である。
『スターウォーズ』において、ハリソン・フォード演じるハン・ソロが借金取りを撃ち殺す場面があるが、その後、ハン・ソロは、借金を踏み倒したまま英雄気取りで大活躍した末、勲章まで貰ってしまう。
深作は、この映画を見て激怒したはずだ。『仁義なき戦い』で日本映画界を震撼させたこの映画監督は思ったことであろう。
――
「ヤクザを舐めるな」と。
ヤクザは怖いのである。借金を踏み倒してタダで済むわけがないのである。ヤクザを舐めると
簀巻きにされて底なし沼に沈められちゃうのである。ヤクザの怖さに比べれば、酸素マスクひとつで宇宙遊泳するぐらいへっちゃらなのである。その怖さたるや、ヤクザが「宇宙にも空気がある」と言えば、即座に宇宙空間に大気が形成されてしまうほどでなのである。
大体、宇宙空間が真空だとか無重力だとか言うやつらは、宇宙空間が真空かどうか本当に知っているのか、エライ人の言ってることを鵜呑みにしているだけで
はないか、そんな吹けば飛ぶようなリアリティなんぞより、ヤクザの存在感の方が遥かにリアルなはずなのだ。その何よりも重要な本質を見失ってしまっては、
小奇麗で破綻のないSF映画を作ったところで仕方ないのである。
そういうわけで、深作は、底なし沼の恐怖に怯え、遂にはエメラリーダを売り飛ばすに至るジャックの姿を執拗に描き続ける。それはもう、この映画の目指すはずだった“SF超大作”の肩書きを吹き飛ばし、大半の観客が引いてしまうばかりの執拗さである。
結果、SF映画ではないにも関わらず、一見SF映画のように見えてしまうことが災いして、『宇宙からのメッセージ』は、深作の意図が正当に評価されるこ
となく、『スター・ウォーズ』のパクリ、トンデモ映画として語り継がれてしまうことになる。(不当な評価とも言い切れないが)
だが、さすがと言うべきか、『宇宙からのメッセージ』に込められた意味を正しく理解した人物もいたのである。他でもない、ジョージ・ルーカスその人である。
『スター・ウォーズ』の続編たる『帝国の逆襲』で、遂にハン・ソロも借金踏み倒しのツケが回って(底なし沼には沈められなかったものの)ヤクザの怖さを
思い知り、続く『ジェダイの復讐』では、レイア姫がまるで売り飛ばされたかのように鎖につながれている。これらの描写こそ、ルーカスが深作のメッセージを
正しく汲み取った証しにほかならない。
もっとも、深作のメッセージを真摯に受け止めたルーカスをあざ笑うかのごとく、ジャックが借金を踏み倒したままニコニコと新天地に旅立ってしまうあたり、深作欣二も食えない男ではある。
※この文章の95%は妄想です。
(2004/9/30)