バンクの花道
第二回「株式会社本田企画」

 

 

 

車の中では昔話に花が咲いた。

この男は本当にあの石丸なのか? 現役時代の面影はほとんど感じさせない。だけど今は、確実に輝いている。現役時代にこの目の輝きはなかったような気がする。

 



 

車は岡山市内に入り、歓楽街の中央町方面まで来たがそのまま通り過ぎて、駅前のオフィス街までやってきた。

まさかこんな所に店があるのか?

石丸も察したのか、

「店は中央町だけど、事務所があるんですよ。こっちでとりあえず店長にあって、話をしましょう」

と言って車をあるビルの前に止めた。

 

 

車から降りると妙にドキドキしてきた。店で軽く面接をして、すぐにでも働けると思ってたので、こうあらたまった形式を取られるとは思わなかった。

「そんなに緊張しなくていいですよ。店長も気さくでいい人だから。適当に喋ってればいいから」

ビルの5階だけど、エレベーターが長く感じる。こんな緊張感を味わうのは久しぶりだ。

 

フロアに着き、すぐ目の前に事務所はあった。

『(株)本田企画』

 

 

「本田さん、石丸です。入ります」石丸がノックをしてドアを開けた。

「電話で言ってた三宅伸さんです。是非、うちで働きたいとの事なんですけど」

「おう」

男はプレステに夢中になってこちらを向かない。

どうやら競馬ゲームで馬を育てているみたいだ。大きな体を丸めてまるで子供みたいに。

 

 

「丸、もうちょっと待ってくれい」

ソファーに座って待っていると、すごい美人の秘書がコーヒーを入れてくれた。スカートの横のスリットが、何ともたまらない。

事務所を見渡すとやたらおもちゃやゲームが多い。

「本田さんゲームが好きでさぁ、朝から晩までやってるよ。あれでも昔はイケイケのホストで、ここらのホスト界じゃあ常にナンバーワンだったんだよ。マンガの主人公にもなったぐらいだから。『ジゴロ』ってマンガあったでしょ」

確かに覚えている。 『ジゴロ』はレースに行った時に宿舎でよく読んでいた。……今、その主人公が目の前にいる。

「余計な事ペラペラ喋るんじゃねぇ、丸!」

ゲームが一段落したのか本田がこっちに振り返った。

 

 

目が合った瞬間、急に言葉が出ないような威圧感に全身を襲われる。まさに普通の人は持っていないオーラが体全体を覆っている。

「はじめまして、三宅伸です。是非とも店で働きたいんですけど」

俺の声は上ずっていた。

「ああ、知っとるよ、昔はよくテレビで応援しとったでぇ。また、なんでうちで? まぁええよ、やるからにはしっかりやって。中途半端はおえんでぇ」

 

本田は石丸を振り向いて、

「とりあえずは丸に面倒見てもらって。丸、おめぇもやりにくい所があると思うけど、この世界じゃあおめぇが先輩なんじゃけん。よう言うこと聞いて。頑張れよ」

そう言うと、本田はやりかけていたプレステに戻った。

「あ、ありがとうございます。じゃあ失礼します」

事務所を出ると一気に緊張が解けた。気が付くと、背中と脇の下は汗びっしょりになっていた。あんなに緊張したのはいつ以来だろう?

……もう、覚えていない。

 

 

 

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