バンクの花道
第一回「連れていってくれ、俺を天国に!」

 

 

 

仕事を失ってからの俺は、毎日が野良犬のような日々を送っていた。

酒に溺れ、生きる希望すら失いかけていた。

これでも昔は、少しは名の知れたレーサーだったのだ。

華やかなスポットライト、割れんばかりの大歓声。

常に俺は世間の注目を浴びていた。

しかし、あんな事件が起きようとは……。

あの事件以来、俺の人生は急変してしまった。

 

 

あれから五年の月日が経った。

誰の視線も気にならなくなり、一人で気ままな生活を送っているある日の事だった。

日雇いの仕事を終えてコンビニで弁当を買って帰る途中、後ろから「伸さんですか?」 と声がかかった。

「えっ!」

俺が 驚いて振り返ると、

「やっぱ、伸さんじゃあないですかぁ」

「もしかして、丸ちゃん? 石丸かぁ?」

石丸はレーサー時代の後輩で、とにかく男前でモテまくっていた男である。

「久しぶりぃ、元気か?」

「伸さん、元気そうで良かった。心配してたんですよ。今、何やってんすか?」

「今……何もしてねえよ。気ままに過ごしてる。それより丸ちゃんはまだ頑張ってんのかよ?」

「いやぁ、俺も三年前に辞めました。なんか、情熱が無くなっちゃって。今ね、ホストやってるんですよ」

 

 

「ホスト?」

「最高っすよ。こっちの方が俺には合ってたみたいで。あ、そうだ! 伸さんも一緒にやろうよ。楽しいからっ! うちの店紹介しますよ」

「いや、俺は向いてないよ。口下手だし」

「大丈夫だよ、慣れだよ、慣れ。さあ行くよ」

そう言うと石丸は俺を引っ張った。

 

 

駐車場に行くと真っ赤なフェラーリが止まっていた。

 

 

「これもしかして丸ちゃんの?」

「そうだよ。この間、買ってもらっちゃってさぁ、最近やっと貢いでもらいだしたんだよねぇ」

「だってこれ二千万ぐらいするだろ?」

「うん、でもまだマンションとかも貰ったよ」

 

 

「何! マンション?」

レーサー時代は鼻くそぐらいの年収だったのに、それが今はフェラーリにマンション……。

俺は腹立つどころか、逆に何か腹の奥底からこみ上げてくるものを感じていた。

……やってみるか?

 

 

「丸ちゃん、連れて行ってくれ。俺を天国に!」

「そうこなくっちゃあ」

「ところで丸ちゃん、今手取りナンボだ?」

「う〜ん、今月から800はあるかなぁ」

「800! 丸ちゃん、現役の時でも年収800もいかなかったのに」

「今の方が天職なんですよ!」

俺たちを乗せたフェラーリは店へと向かって走り出した。

 

 

 

 


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