第3回『君の写真が壁にかけてあるけど、それは壁のしみを隠すためなんだ』

 

ベルギーの競輪は退屈だった。特徴はラインの先行選手が次々交替することだが、あのタイミングは誰が決めているのだろうか。また交替が嫌なときにはどうするのだろうか。それと、なぜ優勝選手が出たラインは、全員が表彰台に上がるのだろうか。全く不思議だった。

「トミー、ユーゴッタチャンス」

私から2千ドル巻き上げた外人が、増成と肩を組んで戻ってきた。今度は「トミー」だ。もはや言うべき言葉もない。

「伸、そろそろ休もうや」

是非ともそうさせてもらいたい。情報収集の目的は一体どこにいったのか。はるばるヨーロッパまで来て、やったことはと言えば、わけのわからない競輪で不良外人に金を巻き上げられることだけではないか。

私たちは競輪場近くのビアホールに入った。運河沿いの寂れた店だ。

「伸、疲れたか」

「で、お前の言う情報屋はいつ来るんだ」

「この辺うろついてると思ったけどなあ」

自称「ベルギー通」のトミーを信用した私が馬鹿だったのかもしれない。

「わし最近心理学に凝ってるんじゃ」

「心理学?」

「心理テストじゃ。やってみるか?」

ろくなものではないだろうが、暇つぶしにはなる。

「目をつぶって、お前が山奥の温泉でノーンビリ露天風呂につかってるところを想像してみてくれ。晴れの日の夕暮れだ。前の谷間には川が流れている」

目をつぶると、腹立たしいことにイメージが浮かんでくる。

お湯の中

「その時、向かいの山の中腹にガサガサッと動きがあった。イノシシの子供だ。かわいいうり坊だ」

いのししたち

全く腹が立つが、紋切り型のイメージが浮かんでくるのは避けようがない。

「うり坊が出てきた。さあ、うり坊は何匹でてきたでしょう!」

「うり坊ではなかった。葉っぱだった」

いきなり増成は笑い出した。

「今のはその人が1週間にするエッチの数じゃ!うり坊でなくて葉っぱ。葉っぱか!」

どこが心理学だ。そう口に出そうとして、私は増成の向こう側から、こちらに鋭い視線を送っている二人のスキンヘッドに気がついた。他にも店のあちこちに気にくわない目つきの奴がいる。

「増成。ここ雰囲気悪いぞ。俺の後ろにややこしい奴はいないか」

「何の心理テストだ? 隠し子の数か?」

 呑気にもほどがある。いきなり後ろから肩を掴まれた。

「ゲラウトオブヒア・モンキー(ここはサルは入場禁止だ)」

私は座ったまま振り向いた。100キロは体重があるだろう。プロレスラー崩れといったところか。

「ならブタはいいのか?(ピッグス・トウ?)」

「おい伸、そのおっさん何言ってるんだ? エロ写真ならいらんぞ」

「外へ出てもらおうか(カモンボウイ)」

「女も駄目だぞ。この辺は高いんだ」

ゆっくりと歩み寄ってきた数人のスキンヘッドを見てようやく増成も状況を理解したようだ。

「一汗かこうや、トミー」

帰ってきた競輪探偵(第4回)

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