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小橋正義、といってすぐに思い浮かぶシーンというのがあって、それは3年ぐらい前、どっかの記念で伸ちゃんと同乗したレースである。 その頃は三宅伸絶不調。ファンとしても目の前まっくらになりそうなぐらいの不調。そういう場合、小橋さんと連係するというのは「傷口に塩を塗られる」ような気分なのである。これが本田晴美や小川巧と連係だったら気も楽なんだが、小橋さんでは。 いやほんと。その頃、小橋さんと同配分になるたびに胸が痛かった。競走でヘタうったりしたら、宿舎の岡山の部屋ですごく気まずい思いをするんじゃないかとかつい想像しちゃって。まあ折檻されるってことはないだろうが、夜フトンでマンガ読んでたら小橋さんに電気消されるとか。そんな子供みたいなことはせんか……。でも、大きな体を丸めてフトンの中でためいきをつく伸ちゃん、なんてゆう絵が思い浮かんじゃうんですよね。でもすぐ眠っちゃっていびきごーごーかいて、また小橋さんに暗闇でつねられるとか。小橋ファンに言わすとその頃三宅伸と連係すると最初から目の前真っ暗だったそうですので(今もそうなのか?)あちらはあちらでいろいろ思うところはあるんでしょうが。 で、その、思い出のシーン。たぶん最終日で、負け戦だったと記憶する。伸ちゃんは道中うろうろしたあげくにタイミングを逸して後方に置かれ、最終コーナーで必死に追い込んで来ようとする(けどとうてい間に合わない)、といういつものパターンである。 その時だ。後ろにいた小橋さんが、 伸ちゃんをバーン!と張り飛ばしたのだ ぱかっと開いた傷口に粗塩なすりつけられたかと思った。 そこまでやるか。まあ、やるんだろうな。小橋さんだもん。小橋さんの五割増しぐらいデカい伸ちゃんは、簡単に張り飛ばされてよろよろと下位入線していた。このレースのあと、義憤にかられた友達が「自分は三宅伸のファンじゃないが、今までさんざ世話になっておいてあれはヒドイ! 小橋許せん!」というメールを書いてきた。まあ、そりゃ私も一瞬は、 「おのれ小橋!」 とコブシ握りしめたが、「小橋の非情さは一本スジが通ってるから、しょうがない。ああいう男だからコワイ競走をするんだ」と思い直した。 小橋さんはコワイ。 たとえば児玉なんてのは口で非情なことを言うわりに、実際はたいしたことしない。しかし小橋さんは黙っていて行動が非情だ。そこがコワイ。 レースだけではない。顔も非情である。何年か前に「競輪年鑑」みたいなビデオが出た(毎年出すつもりだったんだろうけど一年で終わっちゃったなあ・泪)。そのオープニングに小橋さんのアップが一瞬映るんだが、その顔がコワイ。 地顔がカワイイので、ナメられないようにヒゲもはやしてコワモテでいく、というのもあるんだろうが、それだけでは収まりきらないコワさなのだ。しーんとなるコワさ。これは付け焼き刃でなくて生来のものだろう。だって、笑い顔すらひきつってるもん。 小橋正義写真集を私は所持しておりますが、笑顔の写真は何枚もある。が、眉間にシワがはいってる。目が笑ってない。これはなんべんも書いたけど、赤坂プリンスの年間選手表彰パーティで小橋さんに寄ってってサインもらって、ついでにツーショット写真もお願いした。 「いや、それはちょっと。遠慮させてもらいます」
あ、この人は遠慮してるのね、と思って、 「いやだいじょうぶです。どうぞどうぞ」ってムリヤリ腕組んで写真撮ったのだった。その時の小橋さんのひきつったような笑い顔が忘れられん。あ、それはほんとにひきつってたのか。 「寛仁親王牌帰りの新幹線で、ユデダコみたいに真っ赤な顔で通路通る客をにらみつけてた小橋さん」 「寛仁親王牌優勝翌日の、広島地区プロ前夜祭パーティでユデダコみたいに真っ赤な顔でパーティ参加客をみらみつけてた小橋さん」 も目撃した。優勝後でウハウハなのにもかかわらず、コワイ顔であることに変わりはなかった。ユデダコ状だと、あのにらみがますます迫力を増すということがよくわかった。広島のパーティでは「もういっかいツーショット、今度は肩を抱いてもらう」にチャレンジしようかと思ったのだが、ああコワイ顔をされては側にも寄れなかった。金無垢みたいな時計してて、それもコワかったし。
なんて疑問が発生するということが、すでにして「小橋正義は孤立している」という思いこみがある証拠だ。 別に孤立なんかしてないと思うよ。松戸ダービー決勝レースで、勝った小橋さんに伸ちゃんがうしろから、ほんと嬉しそうに肩ポンと叩いてニコニコ嬉しそうにしてたのが忘れ難い(細かいこといえば、それをされるまで伸ちゃんをふりむきもせんかった小橋さんは……ってのはあるけど、ま、ダービー二連覇だし、自分の喜びにひたってたということで不問に付す)。そのあとも敢闘門で胴上げされてたし(別に落とされそうになる気配もなかった)、そのユデダコの広島の時も、前夜祭が終わったらそのままホテルのラウンジで、みんなで祝勝会やるっていってたし。「イヤな野郎だけどタダ酒飲めるからついていく」って感じじゃなく、みんなけっこう嬉しそうにしてたしな。だからタダ酒が嬉しいんじゃなくて、自然に「よかったのう、小橋」という雰囲気が盛り上がってた。伸ちゃんもホコホコと嬉しそうにしてたし。それはいつものことか。 ……と、いくら事実を書き連ねても、「小橋さん、岡山で孤立しとったんじゃないか」という思いこみがぬぐえないのはなぜだ。 インターネットにもいろんな競輪関係HPができて、その中には中国地区や岡山の選手を応援するやつもある。しかし、「岡山選手を応援します〜」という岡山選手の中に、小橋さんは入っていない(小橋さんを単独で扱ったHPはあるが)。 岡山の選手って本田晴美〜三宅伸〜小川巧〜増成富夫〜と並べると、何かある種の「ぼわ〜ん」としたものがある。豊田知之にも星島太にも、その片鱗はある。三宅勝彦や松枝義幸はちょっとちがうか。でも、まあ、岡山のトップ陣は「ぼわ〜ん」「わはは」「ええのう」「こけっ」という感じの人々で、それが岡山全体を覆う雰囲気になってるのである。岡山選手を応援しようって人は、その雰囲気が好きなんじゃないかなあ。 その雰囲気の中で明らかに異質だったのが小橋さんなのであった。 「キッ!」「喝!」の人である。プリンアラモードの中にカラシレンコンが混入してるぐらい異質である。 これじゃあ「岡山応援ページ」に小橋さんは入らんわなあ。そういや、中国地区競輪番組のリンリントライアングルにも小橋さんは出てこなかった。あれなんか、岡山の雰囲気がそのまま番組になったようなもんだったから、小橋さんが出るなんて想像もつかんかったしな。でも小橋さんが着ぐるみ着せられてカルタ取りするシーンとか、見てみたかったけど(そういう番組なんです)。 ただ、見ているぶんにはカラシレンコンの混入は面白かった。 三宅伸と小橋正義の連係なんてのは、今になってわかる、究極のミスマッチラインだった。手術台の上のミシンとこうもり傘の出会い、ぐらいミスマッチ。ゴールデンコンビとか言われながらなぜか見るたびにドキドキさせられたのは、そもそもムリがあったからか。でもそうゆうドキドキは好き。もう見られないのはとても残念である。新潟にいって、関東のどんな先行屋と組んでも、こうドキドキになるカップリングはないと思う。 その意味で三宅伸と小橋は唯一無二のコンビであった。競走でミスマッチでも、文学的にベストマッチ。 競輪に文学持ち出してもしょうがないかもしんないけど。でも競輪を人間劇場だと思ってる者としては、いろいろ傷口に塩を塗られるようなことはあっても、「小橋には、いてもらったほうがいろいろ楽しめた」と思うのである。
小橋さん移籍の弁に「ぬるま湯につかって云々」というのがあった。これも一瞬、「岡山の選手がぬるま湯体質で、ぼけ〜としてて、こんなところでやってたらオレはダメになってしまう!」と取りそうになった。 しかしそれを児玉が言ってるならその解釈で当たりであろうが(そういうことをあえて言うのかカッコいいと思ってる男だ、児玉は)、小橋さんなのでそういう意味ではないと思う。ただ自分の気持ちの持ちようを言ってるだけなんだろう(ああ見えて実はそう悪気はない人とみた)。 それだけに、いったん自分のやっていることに違和感を覚えたら、どうしようもないのであろう。プロなんだし自分中心主義でどこにでも移籍したらいい。どんな利己的な理由でも、べつにかまわんと思う。 岡山から離れたからには三宅伸ともカンペキに敵になるし(まさか同乗して、昔の縁で三宅君、なんてことは言わないよな。……先行一車ででもない限りそんなことは言わんか、……って私がそんなこと言っちゃいけませんね)、これからどういう戦いが展開されるのか想像もつかないが、三宅伸もニコニコほよほよのぬるま湯気質(悪いことでは断じてない)を維持しつつ、「喝!」の小橋さんに正面からぶつかって勝ってくれたら、それが今までの恩返しになるだろう。ガンガンやってほしい(でも、今までの恩って……いやいや)。
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