金網の中の青春21●玉野S級シリーズ日の出杯遠征記

 

玉野に行ってきた。

ちょうど準決の日に大阪に行く用事があったので「ヨシそれなら次の日は日の出杯の決勝。本場まで足のばすぞ!」と意気込んで玉野へ出かけたわけである。高松とか玉野とか高知とか、園田を足場にして行くことが多い。園田がひっかかってるとそこはそれ「仕事」という大義名分ができるので(ただし交通費も宿泊費も何も出ないが)大きな気持ちで遠征できる。園田ありがとう。

私にとって「体のホームバンク」は高松で、「心のホームバンク」が玉野である。といいつつ、そんなにものすごく何回も玉野に行ってるわけではない。そもそもこないだのふるダビだって行ってないのだ。去年の8月の桃太郎杯以来の玉野だから一年ぶりぐらいではないか。ふるダビ仕様に場内は塗装がやり直されたのだろう、壁面にはたくさんのガッツ玉ちゃんがあの顔でニカッと白い歯を見せて笑っている。でもふるダビから半年経っちゃってるので、玉ちゃんたちは全員うっすら汚れまみれである。それが不思議な落ち着きをかもしだしている。

玉野への行きしに買ったスポーツ新聞はみんな三宅伸が優勝だ!と書いてある。買わなくても落ちてるやつとかでチェックしたところ、どの新聞も三宅伸が本命だ。そしてデイリースポーツ以外はちゃんと三宅伸の写真入り(けっこう大きい)だ。ここんところ、スポーツ新聞に掲載される三宅伸は写真写りがいいと思うので満足している。それにしてもデイリーが写真載っけてないのには問題があるのではなかろうか。なぜって、三宅伸選手は宅配でデイリー取ってるって話だ。奥さんが愛娘真子ちゃんに「ほらパパがおるよ〜」とか、新聞見ながらやりたいではないか。デイリーはなるべく三宅伸の写真をたくさん載せるべきだ。

競輪場には4Rについて、そこからぜんぶ車券を買ったがぜんぶハズしました。ハズすたびに運気を変えようと、売店でアイス買って食べることにしたのだが、アイス食べてるのなんてオッサンばかりで恥ずかしかった。しかし玉野の売店のアイスはけっこうバラエティに富んでおり、「キャラメルバニラバー」なんてはじめて見たし食べたらうまいしでうれしかった。玉野の食べ物でうれしくなることなんてなかったしなあ。ふるダビでテコ入れがあったんでしょうかね。

決勝。三宅伸が勝った。逃げる馬淵をゴールできっちり差した。私は1コーナーの金網あたりで見てたので、たぶん差しただろうけどハッキリわかんなかったのだ。するとちょうど私の目の前ぐらいで三宅伸が今まで見たことないようなキレのあるガッツポーズを繰り出したもんで「差した」のを確信できたのである。いや、地元となるとガッツポーズにも力が入るんですなあ。でも「底に余裕があるガッツポーズ。ニタリ」っぽくもあって、そういう伸ちゃんを見たことがなかったから、「なるほどこれが地元で完璧に完全優勝してみせた三宅伸の見せる表情か〜」と感じ入った。なんというか、プライベートな表情を覗き見たような気がして(気のせいに決まってるが)、玉野まで来てよかった〜と思ったのである。伸さまは客の声援に応えて、全部のコーナーでガッツポーズ、ゴール前ではヘルメットも投げ込んで喜んでた。この車券だけ当たりました。私が買ってたのは、三宅伸から馬淵、阪本、渡辺一貴です。阪本へいちばん多く買ってしまったのでほとんど儲かってない……。しかしそんなことはどうだっていいんだ。

さて決勝が終わって、ゆっくりトイレに行ってカガミ見たりして、ついでに顔も洗って、ゆっくりゆーっくりと、裏門方面に向かう。日の出会館出入り口である。日の出会館いうのは玉野競輪場の選手宿舎棟の名称で、私がこの先、なんか祝い事のパーティーでもやろうという時はこの日の出会館を借りようという野望があるのだけれど、貸しちゃくれんか。そもそもどこに頼む。玉野市役所か日自振か、それとも三宅伸に頼むのか。あるいは本田晴美か。本田晴美に頼めばなんとかしてくれそうな気もするが。

とか言ってるのは動揺を押し隠すためなのである。出口に行ってみると、女性二人組が門のところにいた。伸ちゃんのウイニングランで、あれほど大量の客が「しん〜!!」いうてたから、大量の人がそこで伸ちゃんを待っているのかと思えば、みんな帰っちゃってて、その二人と私と、計3人なのである。で、その二人のうち一人はカンペキに「よくわかんないけどついてきた」って風情の人で、もう一人の積極的なほうは誰のファンなんだかさっぱりわからんのである。顔を知らない選手が出てきたら「あっ、田村さ〜ん、写真撮らせてください〜」って言ってたので田村博之のファンなのだろうか。

勝負服脱いでプロテクター姿の三宅伸が出てきた。いつも思うんですが、あのプロテクター、なんか「肩、背中、腰に貼るカイロを貼ってあるババシャツ」のように見えますね。でも三宅伸が着てるとステキですね。とか言ってるのは動揺を押し隠すためなのである。

三宅伸がこっちに向かって笑ったような気がしたので、こちらも「満面の笑みをつくりまくった」ところ、どうもそれは私の前方にいた男の人に向かって笑ってたようだ。笑顔のままひきつる私。その後伸さまはこちら(私なのかどうか、もはや動揺していてわからない)に向かって、

「壺持ってく?」

とおっしゃった。壺を売りつけるのは統一協会か天地正教だが、壺をくれるというのは悪い人ではないのではないだろうか。とか言ってるのは動揺を押し隠すためなのである。そういや、去年の桃太郎杯の時に、2着副賞の備前焼の壺をくださった。またくれるのか?! しかし毎回貰うのも、物貰いみたいでよくないんじゃないかとかアタフタ考えて、「いや、あの、今回は遠慮させていただきますです」とか答えたら、横にいた女性二人組が「なら私たちにください〜」と言うていた。

そしていったん伸ちゃんひっこんで、私はまた一人で思念の海にぐるぐると沈むことになる。壺……壺……もらうと言ったほうがよかったんだろうか……それともやはりここは遠慮したほうが……はっ……もしかして私は……、

壺始末人?

いやそんなことはない。と、底なしのどうでもいいことをぐるぐる考えてるうちに女性二人組は帰っちゃった。えっ、壺はいらないんですか?! 

そこから私のたった一人の時間がはじまった。長かった。みんなジロジロ見るし、遠征の選手がタクシーで出る時に必ずこっちをチラッと見ていくもんでさ。それでなくても最近の私は「人がみんな私をみてダサイ女と嘲笑っている」という思いこみに悩まされているのだ。いや思いこみとか妄想だったらいいんだけど、食べ物屋とかいくといつも便所のドアのそばとか、レジの裏のガチャガチャしたとことかに座らされるし、ガラス張りで外から見える席に座ろうとすると「お客様こちらへ」って穴蔵みたいな薄暗い席に行かされたりするしさ。いきつけの美容院もいつまでたってもメンバーズカード作成してくれようとしないし。ユニクロの店員もパンツの試着で「すいませんこれも入りません」とか何度もやってると冷たい目つきになるしさ……って、書いてるうちに情けなくなってきた。とにかくそんな状況なもんで、ついいらんことをいろいろ考えるわけですね。

しばらくしたら天の助け、わだねんこう青年が仕事を終えてやってきてくれた。やれありがたや。そこで二人でぼそぼそしゃべってるうちに、伸ちゃんが車に乗ってブオーと出てきた。あっ。

「お、おつかれさまでした」

伸ちゃんはねんこう青年とニコやかになんか話している。私は気ばかり焦って何にも言葉が出てこない。あかん。これでは。すると伸ちゃんは、

「壺いらんのじゃな?」

その瞬間、やはりもらったほうがいいんじゃないかと思ったけどやはりここでもらうとかいうのもなんでも貰いたがる女だと思われそうで云々とぐるぐる回ってしまい、ただ口はぱっくぱくするだけ。青木るえかよ、あんたもうちょっとキッパリ決断というものができんのか。ま、物心ついてからずっとこの調子だから死ぬまでこうだろうけどな(泪)。そして伸ちゃんの車はブオーと行ってしまい、私とわだ青年はとぼとぼと坂を下りて宇野駅のほうへ歩いていったのだった。家に帰ってからも、どうも壺のことばかり考えてしまうのだが、いったいあの場でのもっとも適切なレスポンスはどのようなものだったのであろうか。

三宅伸選手優勝ほんとにおめでとうございました。


●胴体 ●目 ●耳 ●口 ●手 ●太腿 ●骨