金網の中の青春 01

こないだの京王閣記念前節に三宅伸選手がやってきたので当然見にいった。いや、初日と二日目は岩手県なんてとこにいたので(仙台駅の「阿武隈川鮭はらこめし」はすげーうまいぞ)、本場で見られなかったんだけど、岩手から帰ってきて録画しといたビデオを見ると、準決の伸ちゃんの逃げ!がすごい!ではないか。うおーカッコええー! 最後差されたが3着。決勝進出だ。特別だろうが記念だろうがSシだろうが決勝に出てくれるって、なんてウレシイことだろうか。それでイソイソ見にいったわけだが、まあ、その、優勝はできませんでした。

で、京王閣はうちからいちばん近い競輪場なもんだからひとつ出待ちをしてみようかと思ったわけだ。

出待ち。ひさしぶりである。いつだかの玉野のS級シリーズで三宅伸が誘導で出ており、誘導選手出待ちを敢行しようと、2日目に選手出口で待ってみた(誘導選手は毎日家に帰る)。その時以来である。でもタダでさえ出待ちファンの少ない玉野というところにもってきて2日目の、それも誘導員の出待ちなんて、そんなもんだーれもいやしねえ。三宅伸だからいるかと思ったんだが。

それにしても、競輪場の選手出口って、どうしてああ雰囲気がサムイんですかね。立川もサムイしびわこもサムイ。岸和田はサツバツとしている。和歌山も松戸もロクなもんじゃない。玉野は海がすぐそこにあって、風光明媚と言えないこともないが、でもやはりあの出口付近の、いつも木枯らしの吹いてるような雰囲気は、待つ者をたいへん圧迫する。そこに立っていると、だんだん気分がクラくなってきて、子供の頃のツラかった思い出とかが走馬燈のように頭の中をかけめぐる……というほどのサムさ。そんなサムさに耐えかねて、私は三宅伸の姿を見ることなくその場を逃げ出した。しかし競輪場から宇野港までの道ってのがまた、陰気なんだ。港のそばのうどん屋で食べたうどんもまずかった。あー、あの日はつらかったなあ。


話がそれましたが、伸ちゃん会いたさに、ツライ思いをする覚悟で京王閣の選手出口にたたずんでみた。いやー京王閣もサムかったですわ。多摩川の河原っぷちの道路に面した出口で、ちょうど夕陽が沈んでいくのが人生の黄昏みたいで。記念の最終日だからそれなりの人数は待ってるわけだが、オヤジばっかなんだ。女は私を入れて5人だよ。そのうちの2人はイヤになったのかさっさと帰っちゃったし。気持ちはよくわかる。

しかし辛さをこらえて待っていたら、神山が出てきた。神山は人気背負って9着だったせいか終始目を伏せ、そそくさと車に乗り込んでブブーと去っていった。その車がシルバーグレーじゃなくて、鉄色みたいなベンツで窓は総スモーク。うっすらと見える運転席の神山ははっきりいってヤの字の人そのものであった。神山雄一郎といえば輪界を代表する良識の人(見かけも)だと思っていたのだが。しかし鉄色のベンツはこわい。吉岡のベンツは小豆色だと聞いて「なんちゅうセンスしとんや」と思ったもんですが、神山の鉄色のベンツもそーとーなモンでしたわ。

そうこうしているうちに出てきました三宅伸選手。うう、待った甲斐があった。ここんところずっと、三宅伸出現までにめげて帰るか、三宅伸が帰っちゃったのを知らずえんえんと待ち続けるかというどっちにしろスレ違いばかりだったが、やっとご尊顔を拝することができた。いや、金網の中のナマ顔はよく見るけど、金網の外のご尊顔はまた別モノですから。伸ちゃんけっこう人気あって、オヤジや数少ないギャルに記念撮影をねだられたりしていたぞ。伸ちゃんの服装はベージュのコッパンにチャコールグレーのTシャツに紺のシャツ。マジックで「しん」と書いた白いタオルを首にかけ、茶色い革のリュックに、スチュワーデスが空港でひっぱってるような黒のカート。なんちゅうスタイリッシュなことでしょう。

で、だいたい遠征勢はタクシーでお帰りになるんだが、何を思ったか三宅伸様は(さっきから敬称がめちゃくちゃだな)電車でお帰りになるということで、私は思わず金魚のフンみたいにくっついて同じ電車に乗っちゃったですよ(いや、帰るためには同じ電車に乗らないとイカンのですけど)。ご一行は三宅伸に星島太に紫原政文に、たぶん加倉高広(すみません断言できなくて。いかんせん加倉兄のオフの顔などはじめて見るもので……)。もう時間が遅いもんで京王多摩川の駅の競輪場出口も閉鎖になってるから、競輪帰りのオヤジがタムロってる居酒屋が立ち並ぶ道を歩いていくわけだが、選手が歩いててもあんまり気づかれないもんですね。なぜかよく目立つのが紫原でちょくちょく声かけられていた。ああいう顔の人は目立つのだろうか。星島が「オレや小川巧さんはぜったい誰にも気づいてもらえないんだ……」と小声で言っていたのが何か可愛かった。伸ちゃんは競輪場出口のとこにある質屋を見て「おー、質屋じゃ! ちゃんと考えてこういうとこで商売やっとるんじゃ」と言っていたが、競輪ヤラレ客の持ち込む質草など、はいてる地下足袋とかバッタもんの腕時計とかで、それでは商売としてウマミはないんじゃないんでしょうかね。なんて考えるのも今冷静になってるからで、その時は「伸ちゃんの言うことはなんてステキなんだろう」とぽーっとなって聞いておりました。

さて、前置きが長くなりましたが、京王線に乗ってからの伸ちゃんを見ていて、思うことがいくつかあったのでここで書きたいと思います。

その1●三宅伸、まつ毛がくるんくるん。
これはもう見事なほどです。私はビューラーもマスカラもやらないずぼら女だから詳しいことはわからぬが、女がまつ毛をあれほど美しくくるんくるんに保つためにはどれだけの手間が必要であろうか。青木光恵のマンガで「まつ毛がくるんくるんのオッサン」が笑われてるのがあったが、三宅伸選手の顔だとまつ毛がくるんくるんでもちっともおかしくはない。


その2●三宅伸、でかい。
三宅伸を見るのはたいがいオープンエアーの場所であったから「でけえ」とは思ってたがあれほどとは思わなかった。電車で立っていると、ふつうなら吊革をつかむ。大柄な人は吊革を吊ってある金属の横棒を持ったりする。しかし三宅伸はそんなもんではないデカさを見せた。その横棒にヒジかけてるんですもん。いや、ヒジはかけてなかったか、いくらなんでも。でもそれぐらい大きかったんだってば。吊り広告をノレンみたいに頭でかきわけて歩いてたもん。人って、大きいだけで貴重だ、エライ、と思わせるぐらいの大きさだったぜ。


その3●三宅伸を知らない人はたくさんいる。
お友達の長崎さん(ヤマコウファン)から聞いた話によると、西武園の帰り、西武線の中で、競走帰りの小嶋敬二の横に座ってたOLが小嶋敬二にもたれてくわーっと眠っていたそうで、長崎さんは「日本一の先行選手の横でガーガー寝られるなんてすごい人だ」と思ったそうである。しかし小嶋敬二を日本一の先行選手だと知ってる人のほうが「すごい人」なんじゃないか。ふつう知らないよ小嶋敬二なんて。しかし競輪ファンにしてみれば小嶋にもたれて寝る女はやはりスゴイ。で、京王線は下校途中の女子学生などで徐々に混み始め、三宅伸選手のまわりも女子が増えてきた。金髪のコギャルなんか、三宅伸と背中で密着しているのである。三宅伸と密着。なんてうらやましい。と思って見てたら伸ちゃんのリュックが当たったかなんかして「チッ」とか言ってるのだ! 「チッ」だよ「チッ」! 三宅伸様に!でも、まわりの人も別に「あっ、あれは」なんていって三宅伸を見るわけでもない。あんなに大きくて目立ってんのに。そーか、みんな知らないのね、三宅伸のこと。伸ちゃんはリュックが他の人に当たるとメーワクになると考え、おなかのほうへしょい直し、またその姿が可愛く、見とれたりしてたんだが、そんなもん私だけだってことだが。


ま、そんなこんなで電車は新宿に到着し(京王新線だったもんで笹塚で地下鉄にもぐりそうになって慌てたが)、三宅伸&星島太は東京駅へ、紫原&加倉兄は羽田へと向かって中央線に乗って去っていった。私は思わずそれにも乗ってついていきそうになったが思いとどまった。彼らを乗せたオレンジ色の電車はガタゴトと駅を出て消えてったのだった。


たまには出待ちもいいもんだ。
 

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