元祖・金網の中の青春

これは1996年の岐阜オールスターではじめて花束嬢というもんをやった直後、ニフティのMCNフォーラムにアップした『花束嬢体験レポート』です。これがすべての始まりでした。コレがモトになって月刊三宅伸もできたし、競輪打鐘読本に書くこともできました。古くて文章もまずい原稿ですが、記念すべき花束初体験記録なので、基本文献(失笑)としてアップしておきます。今読んでみると「げっ」と思うようなことも書いてますが、発表当時の勢いをそのまま出すために、そのままにしてあります。超長文です。

K坊が『女性ファン募集』の記事を知らせてくれた。岐阜のオールスターで、開会式、オリオン、ドリーム、決勝の各選手に花束を渡す女性ファン募集の記事である。

これを見た私とY嬢は、すぐに、「抽選で選ぶというのが気に入った。ダメモトで応募しようではないか」と決意し、岐阜市役所へハガキを投函した。

なにしろ、こういうハガキは目立てば目立つほどいいという。私は、西原理恵子の絵ハガキに極太マジックで住所氏名年齢職業と書き殴り、ついでに速達にして送った。で、若いほうがいい選んでもらえるんではないかと思い、トシはサバよんで24歳とゆうことにして、しかしそれではあまりに気がとがめるので架空の妹の名前で応募。私の名前では、28歳にして応募してみた。この年齢の件に関しては、あとでいろいろ問題が起こってくるのだが、まあそれはいい。

そしたら当たりやんの。

オリオンは28歳の私。ドリームは24歳の私。Y嬢もドリームに当選だ。

オリオンにはハガキ一枚。ドリームには2枚、Y嬢もドリームに2枚だけしか出してないんだが、ふたりとも当たっちゃったりしていいのか。いったい何人の女が応募をしたのであろうか。そんなことより、オリオンはともかく、ドリームとゆったら、三宅伸に花束渡せるのか? ひえ〜〜〜。それにしても、ドリームっつったら競輪選手の人気トップ9だろ。その9人の花束嬢のうちの2人が、私とY嬢とゆうのは豪勢というかなんというか……。神様はよく見ていてくださる。

どの花束嬢がどの選手に渡すかで、ぜったいモメるはずだ。はたしてその折り合いはどうつけるのか。早い者勝ちなのか。私はすぐに岐阜市役所の事業課とやらに電話して、「渡したい希望選手は聞いてもらえるのか!」と迫ったら、「当日、みなさんが集まったところで談合で決めてもらうと思います」と言われた。そりゃそうだよ。競輪に競りはつきものだよ。そうこなくっちゃよ。誰と競りになろうが私は三宅伸の番手を主張するぜ。実績と実力には欠けるが、こちとらトシだけはくってんだ。たぶ四十期代なんぞ他にはいるまいからな(……と、思ってたのだが)。

オールスター初日。私はトキメク胸を押さえつつ、岐阜へと赴く。ついたら2Rのジャンが鳴っていて、さらにトキメク。きょうはオリオンだが、ドリームの選手とかもそのへんフラフラしてるかもしれない。そこで三宅伸と運命的出会いがあるかもしれないのだ。

来賓受け付けより入れと言われ、「おお、来賓席で見学できるのか〜」と喜んだのも束の間、なんか1C寄りのキタネエ建物の3階の、さらにキタネエ会議室みたいなとこに連れ込まれ、「7Rの発売中に花を渡すので、それまではここを動かないように」とか言われてにわかに暗くなる。その会議室、バイトのネエちゃんやらイベント仕切ってる代理店の男やらがたむろってて、落ち着かないことおびただしい。レースもモニターでしか見ることができない。出された弁当はマズイ。ヒデエ。

集合時間は12時30分だが、私は一時間以上早くついてしまい、はやる気持ちを見すかされたようで恥ずかしい。それでもポツリポツリとファン代表が現れる。うーむ、二十代中盤というような年格好の女がほとんどだ。花束レースを戦う敵である。いったいいつ地乗りをするのか、コメントを言わされるのか、ドキドキしていたら、イベント屋が耳を疑うようなことを言った。

「渡す選手はクジで決めます」

私は思わず、「競輪なんだから競りが必要なんではないのか」と抗議の声をあげるも無視され、さっさとクジを引かされる。しかし誰に当たったかはすぐに明らかにはされない。なんなんだ。

私は高橋光宏に渡したかった。感じ悪くなさそうだったから。他のギャルは誰を希望しているのか。にわかに私は社交家となり、そこに来てたファンの子にアンケートをとった。「ねえねえ誰に渡したいの〜?」 以下にその結果を書こう。

「稲村クン」「稲村さん」「山田か山口」「真矢クン」「稲村さん」「茂サン」「高橋光宏(これは私)」「誰でもいいけどお……この人だけはチョット(と俵を指さす)」「山口幸二」

稲村人気が目立つ。なんでだろう、あんな顔なのに。独身でありさえすればいいのか? なんだ、高橋なんか楽勝じゃん。じゃあ希望聞いてくれよー。とにかく俵と本田晴美と金古の不人気がすごい。私、べつに俵でもいいけどねえ。俵はいちばん最初に好きになった競輪選手なのだがねえ。目つきとかカッコいいと思うが。

クジの結果が発表になる。私、井上茂徳。鬼脚。うーむ。可もなく不可もなくといったところか。人気抜群の稲村クンは、「私、稲村だけはイヤ」というギャルに当たる。なー、こういうことになるとみんな不幸なんだから、競りをやれよ、競りを、というんで一から希望を聞き直すこととなるが、稲村の番手を主張するギャル3人が、「もしハズレたら本田か俵か金古になりますよ」と脅されて「じゃあ私、クジで決まった山本とかいう人でいい」とかぬかしやがり、結局クジで決まった選手のままとなる。キー、おのれら、競輪てのはなあ、競りが……(しつこい)。

花束嬢9人は、どでかい花束を持たされて、おやじたちの注目および罵声(「おめえらなんなんだよ、このブスが」とか。余計なお世話じゃ)を浴びつつ、一階の車券売場の前とかを歩かされて、どこともつかぬ地下にもぐらされる。おお、ここから検車場なんかに連れてってもらえるのか!と浮き足立つも、連れ込まれたのは誘導員のたむろするタコ部屋みたいなところの廊下であった。

でもローラーとか置いてあり、私ら9人のギャルを見て喜んで出てくる誘導員もいたりして、まあ競輪場の内部に入り込んだという気分にはなるのである。誘導員の耳にくっついてるマイクじゃなくてスピーカーじゃなくて、なんだ? あの指令が聞こえるアレ、あれも聞かせてくれたりして(レース後だからただザーザーいってるだけだが)、誘導員は女好きが多いとみた。あと、女目を意識して急にローラーでモガきはじめたりとかもしてたし。

6Rを、私らはその地下のタコ廊下で音だけ聞いている。そのレースには、直前のびわこレディース教室でサインをくれたり握手してくれたりツーショット写真とってくれたり角のようにとんがった筋肉のすごい尻で驚嘆させてくれた内林久徳が出ていて、買いたいのにそこにいたんじゃ買えねえ。そしたら勝っちゃったよー。おまけに沢田とのスジで千円もつけたんだよー。地団駄ふんでるうちに、「じゃあいきまーす」の声がかかり、誘導員が上がってくる階段を上がってったら、またすげーヤジ。金網の内側で聞くそれは異様に迫力があるのである。選手の気持ちをちょっと知る。

バンクを横切って、あの赤たたきの内側のとこに並ばされて「はいお客さんのほう向いてくださーい」って、私らは客なんか見たくねーんだよ。で、レーサーに乗ってオリオンの選手が敢闘門から登場。自転車を預けて台の上ののっかる。そして渡す選手の車番順に並ばされた私たちは、1番のギャルから台上にあがる。私は5番の井上茂徳の目の前に立った。

すると井上、上目づかいの横目で私のことを値踏みするかのように眺めまわして「ふっ」というか「へっ」というか、そんなふうに笑うのである。悪かったね。どーせあたしは若くもなきゃ可愛くもないよ。美人とはほど遠いよ。でもファンが目の前に立ったってのにその「ふっ」はねえだろう。なんか、井上って、人格者の年寄りのような気がしていたが、よく考えてみりゃうちのだんなより年下で、まだ充分若者ではないか。さらに私を見た目つきにも充分な若さを感じた。吉岡の番手はまだまだ譲ることはない。

んで、いちおう花を渡したあと、義務的な握手などかましてくれ、その手のザラザラな感触が、オリオン花束嬢としての収穫であった。

オミヤゲは、オールスター競輪テレカ2枚組み、岐阜観光の割引券(金華山のロープウェイが960円から900円になるやつとかの綴り)、織部焼き夫婦茶碗、渡した選手のサイン色紙、以上である。私のほしいようなものはない。色紙も、山田に当たったシゲさんファンのギャルと交換して、それをさらに山田ファンの稲村の色紙と取り替えたりして、わけわからん。今、うちには「夢・稲村成浩」とゆう色紙があるが、Y嬢にくれと言われているのでやってしまうだろう。

しかし、ほんとに、選手とツーショット写真ぐらい撮れるかと思ったがそんなことはみじんもできず、自分の担当選手以外はほとんど顔も見えないし、これはドリームで三宅伸に当たったとしてもほとんど期待はできないのではないか、とまっくらになる。そもそも、渡す選手をクジってのはあまりにもヒドイ。ドリームの時はぜったいイベント屋にねじこんで、希望選手を主張したうえで競りに持ち込むようにしてやる! と強く決意した私であった。

さあ、ドリームの花束嬢の日がやってきた。……って、翌日だよ。

とはいえ、オリオンでの経験から、そうイイことを期待はできない。ならば、なんとか目当ての選手に花束を渡したい。目当ての選手とは、私はもちろん三宅伸、Y嬢はもちろん吉岡稔真である。双方、競りはキツそうだ。Y嬢もホヤも、三宅伸ならオッズ1倍のグリグリだというが、あの伸だから、誰かが競ってくるはずである。 初日とほぼ同じような時刻に私とY嬢は岐阜につく。またあの会議室にとじこめられるのはイヤだが早く行ってイベント屋に直談判しなければならない。「なんでもいいがクジで決めるのだけはやめてくれ。どうしてもクジだというなら、せめて指名順を決めるクジにしてくれ。昔のドラフト会議みたいに!」

前日、私が、終わってからもさんざんぶーたれたお陰か、「いや、主催者がクジで決めてくれっていうんですけど、まあ希望をまず聞くことにしましょう」というところまで持っていった。やった。あとはこちらのパワーで敵を圧倒するだけだ。

ポツリポツリとギャルたちが登場。なんか、オリオンの時よりも、みんな思い詰めたような顔をしている。私はひとりのギャルに「ねえ、誰に渡したい?」とリサーチを開始したのだが、「え? ああ……うーん、誰でも」とか口をにごす。なんか、手の内をさらしたくない、という雰囲気である。作戦は内緒とか言ってた全日本選抜の児玉を思い出す。他のギャルも、黙りこくっていて、話しかけられるのを拒否しているようなのだ。恐ろしい。

ちなみに、オリオン花束嬢に、「ドリームで渡すとしたら誰がいい」というのを聞いておいた。以下の回答が得られた。

「十文字クン」「十文字」「吉岡くん」「吉岡かなー」「児玉クン(この人は真矢を指名してた人だ。渋いね)」「高谷〜!」「三宅伸だな(これは私)」「高谷クン」「うーん、誰でも……でもこの人だけはちょっと(と滝澤を指さす)」

十文字、吉岡、高谷の三つ巴という結果が出た。高谷って人気あるんですね。知らなかったのでけっこう驚く。あんなにナマッているのに。いや、今やナマリが可愛いということなのか。
 
会議室にいちばん最後にやってきたのは、40歳はぜったい越えていると思われるお姉さん。まあ、他人のトシはよくわからんのだが。でも仲間が来た気分になり、話しかけようとするが、その人がいちばん目がツリあがっているのでそばに寄ることもできない。「たぶん私たちよりも年上っぽいから、ああいう人は滝澤とかのファンなんじゃないか」とY嬢と話し合う。

そしてイベント屋登場。「それでは、皆さん、花束を渡したい選手の希望を聞きます」

ついに足見せの時がやってきた。これから、非情なまでの競りが行われるのだ。やるぞとことん。

「三宅伸(これは私)」「吉岡くん(Y嬢の心の叫び)」「吉岡っ!(これは年上お姉さん。すげえキッパリ言いきった。そうか……吉岡クンだったか)」「海田くん(このコは富山から単騎、やってきたそうだ)」「吉岡さん」「うーん……よくわからないから誰でも(さすがに、この期に及んで煙幕張ってるとは思えぬから本当なんだろう)」「十文字くん」「十文字」「吉岡さん」

ナント、吉岡、圧倒的人気である。三宅伸なんかあっという間に決まっちったよ。無抽選だったよ。バンザイではあるんだけどさ。そんな人気ないんか。あとで聞いたら「三宅伸だけはイヤだと思ってた」とかいう発言もあり、私はほんとにきょうびのギャルの気持ちがよくわかりません。イイじゃんか三宅伸。

それと、何よりもビックリは神山の人気のなさ。イベント屋がおどろいて「神山ですよ、神山! いま乗り換えれば神山は無抽選でキマリですよ」と呼びかけるも誰も声をあげず。私は思わず「私、神山にいきます」とか言いそうになったがすんでのところで思いとどまった。なんで神山ダメなんだろ。「誰でもいい」と言ってた子に私が強くすすめて神山を取らせた。「ぜったい神山はイイ人だから、行きなって」と。あと、オリオン組に人気のあった高谷が意外な不人気。

で、十文字の番手を主張した二人がジャンケンして、このジャンケンはアッサリしたものであった。ハズレた子はたんたんと高谷に行く。そして、ついに、吉岡組のジャンケンが始まる。

これがスゴかった。もーたいへんな緊迫感がだだっぴろい会議室に充満した。その緊張に耐えられなくなった一人が、「わ、私は降ります。松本整さんに行きます」と戦線離脱。これは彼女の深慮遠謀でもあって、吉岡がダメなら、吉岡の隣りの松本にいって吉岡ばっかり見ていようという作戦だったのだ。吉岡は1番車で、隣は2番の松本しかいないのだ。番組屋、吉岡はせめて5番車ぐらいにしてあげてほしかった。

これによって、外堀を埋められてしまったのがY嬢だ。Y嬢もまさに、「吉岡くんがダメなら松本にいって、吉岡くんに近い場所にいこう。まさか松本なんかに行くやつもいないだろうし、安心だ」と思っていたというのに。こうなると、命がけでジャンケンに勝つしかない。敗れたら児玉か滝澤に行くしかないのだ。まさにがけっぷちだ!(いや、私は児玉でも滝澤でもそんなにイヤじゃないですけどね)

3人の女が、手をにぎりしめて立つ。息をのんじゃって、誰も手を出せない。イベント屋が入って、

「ハイ、ジャンケン、ポン」 決まらぬ。

「ハイ、ジャンケン、ポン」 決まらぬ。もう会議室中の人が息を呑み、空気の緊迫は頂点まで達しようとした。そして、

「はい、ジャンケン、ポン」「キーッ」

 絹を引き裂くような女の叫び声が緊張を破った。

「キーッ!!!」これはいったい何の悲鳴であろうか。

 一瞬のち、 「やったーっ、吉岡とったーっ!」 これこそ、Y嬢の叫びであった。

私も思わず駆け寄って抱き合ったね。私は他人の幸福に対して素直になれない者であるが(ひでえな)今回ばかりはY嬢を強力応援していた。なぜなら、私だけが三宅伸を獲得して、Y嬢が児玉とかだった場合、手放しでは喜べない。「ねえねえ聞いて聞いて三宅伸ってねー」なんてはしゃいだら、「私は児玉なのに……ウジウジウジウジ」と暗い気分に陥ることは必定。それはあまりに気の毒なので、こちらも喜びを噛み殺しつつ、相手に気を遣って沈思黙考しなければならない。(このことはY嬢も「私が吉岡くんとっちゃって青木さんが児玉とかだったら大手をふっては喜べない」と考えていたそうだ。二人とも大人ですねー。でも児玉、そんなに人気ないか)

しかし、一生分の幸運を使い果たしてしまったのではないだろうか、私たち二人は。

……とか言ったところで、K坊が書いておられたようにこれでコンパができるわけでなく、ツーショット写真の一つも撮れないというしょーもないことなのであるが……でも嬉しくてついスキップしちゃったりするというのがあなた、女心というものなんすよ。あの、キタネー会議室に光りが満ち溢れるような気がしました。

で、私の隣のイスに、吉岡ファンの四十越えたお姉さんがスッと座ったもんで、ああこういう時こそ年寄り同士交流しようと、

「あの、花束、どなたに渡すことになりました?」

と聞いてみたら、お姉さんはキッとなり、プイと横向いて、一言、

「滝澤っ」

もう、全身から拒否光線がバンバン出てあまりに怖ろしかったので口をつぐんだ。 しかし、彼女がそうなってしまうのもムリはなかったのである。

「あの人、じゃんけんに負けたあと、泣いてたんですよ」

松本整にいった子があとでこっそり教えてくれたんですが、なーんーとー。うーむ。私らは抱き合ったり飛び跳ねてたりしたから知らなかったが、泣いていたか。「Y嬢、ジャンケン負けたら泣いた?」「うーむ、泣きゃあしないとは思うが……青木さんは?」「うーむ、泣くまでは……しかし」私らは顔を見合わせてうつむいた。ふたりともお姉さんのことは笑えない。あまりはしゃぐのはよそう、と言い合ったのであった。

しんみりしたのも束の間、我々は花束を持って例の誘導員タコ部屋前の廊下に集合させられた。そこまでいくとまた舞い上がっちゃって、お姉さんの気持ちを気遣うとかいうことはふっとんでしまうところがミーハーの冷たさだ。さて、花束にはいくつか種類があり、前日、井上茂徳に渡したやつは、気合いが入ってなかったせいかしょぼいやつを選んでしまったので、ここはいちばんに大輪のヒマワリの入った明るい花束をゲットした。ヒマワリ。伸のイメージによく合うわ。

誘導員の登場する階段を上っていくと、まあ前日どころではないすげーヤジ。大阪方面から来てらっしゃるオヤジが金網にかぶりついてのべつまくなしに「おーう、このブス、そんな顔で選手に花渡したって喜べへんでー、なんやその顔ーぶすーっとすんなこのボケエ」とかおっしゃってくださり、ギャルたちの顔はますますこわばる。

しかしバンクの中に入って待機する段になるとがぜんアドレナリンが全身から吹きだしはじめた。ついに三宅伸の眼前に立つ日がきたのだ。

あ、オリオンの時のことで書き忘れたことをここで書いておきましょう。

山本真矢は終始不機嫌というか固かったというか、「なんか、ぶすーっとして、こっちの目も見てくれなかった」とは花束嬢の証言。へー、なんか女の子には愛想よさそうなのに、意外だ。私は高橋光宏が目当てだったので、遠くから目をこらして見たが、なんか眠そうなぼやけたような顔だった。彼は勝利選手インタビューの時がいちばんフェロモン発散してステキということがわかる。稲村の自転車。他のどの選手よりもサドルの位置が高く、「脚が長いのねえ」と思いました。

ついにドリーム選手の入場だ!!!

何しろ私のいた位置からは、入場選手の横顔がちょっと見えるだけなのですが、印象に残ったことを。

・吉岡はたぶん床屋にいきたて。

・滝澤モミアゲ長し。なんか異様なほどカッコよく見えた(これは後にY嬢とも同意見であることを確認した)。

・十文字はそのへんのにいちゃんのようだった。

・児玉はやっぱりひときわ小さい。

・海田は実物のほうがよい(どこがどうというのではないが、実物のほうがまだ目に表情がある)。

・高谷は高橋同様ぼやけた顔をしていた。

それぞれ選手にインタビューなんかをして、「それではみなさん、選手たちに盛大な拍手を!」とか司会者が言ってるそばから「はい、壇上に上がって上がって」とせかされる。

んで、ついに三宅伸の目の前に立ったですよ。

新聞等でご覧の方も多いと思いますが、オリオン選手もドリーム選手も、イチローの私服みたいなダボシャツに短パン、キャップをお仕着せで着せられており、似合っているやつはほとんどいなかった。三宅伸もお世辞にも似合っているとは思えなかった。しかし、しかしだ。ステキなんだよ。私、目が離せなかったぜ。井上の時は、目が合うと気まずくて下むいたりしてたが、今私たちに与えられたのはわずかな時間だ、そんなことをやっているヒマはない。私がとにかく三宅伸の目をじいいっと見つめていたせいか、伸ちゃんはチラチラとこっちを見てはそのたんびに視線がガッチーンとぶつかるので、困って目を泳がせていた。私は勝利選手インタビューなどによく見られる「三宅伸の泳ぐ視線」も好きなので、それでまた体がとろけた。

「それでは、花束をお渡しください!」

司会者の声に、「ああこれ渡しちゃったらもうおしまいかあ」と悲しくなりつつ、

「三宅さん、ずううーっとファンなんです。がんばってください」

と、「私は最初からあなたを希望したのよ吉岡のハズレとかでいやいや来たんじゃないのよあなたがいっしょに地獄に堕ちようと言うならどこまでもついていくわ」という気持ちをこめてそう言ったら、まあ、伸ちゃん、にわかに人のよさそうなあの笑顔でテヘッと笑い、あのなんともいえぬ声で、

「あ、そうなんですか。どうもありがとう」といって私の手を握りしめてくれたわあ〜(いや、ただの握手なんすけどね。でもそう思っちゃう私の心の動きは理解してくれ)。

伸との、束の間の逢瀬も終わり、私たちは壇上から引き上げさせられようとしていた。泣きたいけどじっと耐えなければいけないのね。こんどあなたとこうして会えるのはいつなのかしら。

それはいいんだが、壇から降りしな、伸の隣りにいた神山とちょっと目が合ったので、つい会釈をしたところ、神山はあとずさって目をそらした。なんなんだよ。それと彼、どうゆうつもりで茶髪なんかにしたのか。似合わないのに。

誘導員の階段を下っていくとき、さっきさんざんこちらをヤジリ倒してたオヤジが、

「おーう、お前らー、いい顔してるぞー、選手もみんな喜んどったぞー」とか叫んでたりして、これでは「チョットいい話」みたいではないか。そいつとは別のオヤジが、

「なあ、なあ、十文字に渡してた子! どうやった、十文字は」とか息せききって聞いたりしていて、おやじたちも十文字には興味津々なのである。有名人好きなのである。

控え室の会議室に戻ると、私たちは軽躁状態にあった。 皆さんの感想を、おぼえてるのだけ書いておこう。

「十文字クンは、握手の時、すごくぎゅうーっと握ってくれた」(そのあと、みんなで手の握りっこをして、◯◯クンはこれぐらいだった、とかやったというバカ。それも右手はみんな選手と握手してるから左手でやったというさらにバカ)

「児玉は写真うつりがいい」

「高谷はどこにいたっけ」

「とにかく吉岡クンのカッコ良さはすごかった(これはY嬢と、吉岡の隣の松本にいった子の一致した証言であるが、……親族のアリバイ証言は証拠にならないっていうしなあ)」

「私、海田さんに花渡す時、つきあってくださいって言ったの(一同のけぞる)。そしたら、黙って下むいて笑ってた」つきあってやれよ海田、と私は思った。

「滝澤がなんかえらくカッコよかったー」

とにかく私は「いかに伸がステキだったか」という話をしたいのだが、みんな聞いちゃくれないのである。吉岡の話ならみんな聞くのに。ううう、どーして伸って……。でもY嬢は、「三宅伸はカッコよかったです」と言ってはくれた。社交辞令でなければいいのだが……いや、Y嬢はそんな人じゃない! 三宅伸はステキだったぞー。

そのあとは解散して、それぞれレース観戦などしたのだが、なんとなく気のあう子とは一緒になってレースもそっちのけで「私の◯◯クンはステキだった」という話になる。そこで、思わぬ事実が明らかになった。

私とY嬢が、「いやー、今日の花束嬢、みんな若くて参りましたわ。なんか20代限定とかじゃないかとか思っちゃって」と笑いながら言ったら、

「えっ」

とみんな黙りこくってしまった。そして誰かがおそるおそる「これ、20代限定なんですけど……?」

なにいーっ。そんなこと、どこにも書いてなかったじゃんよ。K坊、そんな重要なことを、お書き忘れになられたのでしょうか。それとも、20代限定とか書いちゃ「青木さんが落胆するから、書かないでおこう」とかいう仏心だったのでしょうか。それとも、拾った新聞のその部分だけ破れたか踏みにじられたかして失われていたのでしょうか。

しかしねえ、私なんか、たまたま出したハガキぜんぶウソで塗り固めた年齢だったからいいものの、知らずに「30ウン歳ですけど、ぜったい選んでネ!」とか書いて出してたら、とんだ恥をさらすところだったではないですか。ハーよかった。

しかし、モノは考えようで、知らなかったから堂々としてられたというのもある。

ジャンケンで敗れて泣いた吉岡ファンのお姉さん、あの人はたぶん20代限定と知ったうえで、「それでも吉岡に会いたい」一心でトシをサバ読んで来たに違いないのだ。さぞや気合いが入ったことであろう。それなのに吉岡とはほとんどなんの接触もなく……。おまけに、若いコには「あのおばさん根性ある」とか言われちゃって……。(あ、でも、人のトシはわからんから、もしかしたらホントに20代かもしれません)

これ以上ダラダラ書いてもしょうがないので(もうじゅうぶんダラダラか)、このへんでお開きにしたいと思いますが、私はその日、はじめて三宅伸の頭・ヒモ総流しというものを敢行いたしまして、大損させていただきました。実に6番車らしい戦いぶりでした。彼が「あんな女に花なんかもらったからツキが落ちたんじゃ」とか思っていないことを祈るばかりです。しかし三宅よ、もーちょっと考えた競走をしてはどうなのか。

●胴体 ●目 ●耳 ●口 ●手 ●太腿 ●骨