御刀手入方法



 ここでは、刀の手入れ用具の種類と手入れ方法を紹介致します。
 刀を手入れするにあたって、最も重要な目的は
「刀を錆びさせずに、消耗させずに保管する事」
です。それを踏まえまして、進めていきたいと思います。
 尚、こちらで紹介致します「手入方法」は、刀の摩耗を極力抑える事を主眼としておりますので、古来よりの作法からは外れる方法も推奨しております。予めご了承下さい。



御手入れ道具について

刀剣の手入れには、いくつかの専用の道具が必要となります。ここでは、基本的な道具の種類と一般的な値段、入手方法、使用方法を御紹介致します。


刀剣油
 刀身に塗って、刀が直接、湿気や空気に触れないようにする為の油です。
 油の種類として、硬質の油と軟質の油がございます。軟質油とは、料理や漢方薬でお馴染みの丁字から取った油で、短期間で劣化する為、一ヶ月程度毎に手入れをする時に向いています。硬質油は、ミシン油などでお馴染みの機械油で、劣化が少なく、三ヶ月〜半年程度の長期間保存に向いております。
 お値段は、だいたい中瓶で1,500円前後で、全国の刀剣店、または模擬刀を扱っている武道具店、お土産屋、骨董屋などで入手可能です。

目釘抜き
 柄にある目釘を抜く道具です。 昔から縁起が良いと打出の小槌型が愛用されておりました。
 これは一本手に入れますと一生使えます。種類は少ないですが、気に入った物を手に入れられた方が飽きが来ないでしょう。
 お値段は1,000円〜。全国の刀剣店、または模擬刀を扱っている武道具店、お土産屋、骨董屋などで入手可能ですが、大抵は手入れセットの中に含まれているようです。

打ち粉
 砥石を掛けた際に、水桶に沈殿した粉を詰めたものです。良く時代劇などで刀の手入れをする時に使っているのがこれです。これを使って、古い油を取りますが、打ち粉自体は化粧研も剥がしてしまいますので、使用方法に注意が必要です。
 大きさなどに種類があり、中の粉も基本的には砥石の粉ですが、最近の物は動物の骨を細かく砕いたものを代用にしている場合もあり、あまり安い物は粒子が粗かったりして疵の元となりますので注意が必要です。
 お値段は1,500円〜。全国の刀剣店、または模擬刀を扱っている武道具店、お土産屋、骨董屋などで入手可能です。

無水アルコール
 純度99%以上の無水アルコールを使用します。
 これは、打ち粉の代わりに、古い油を取り去るのに使います。打ち粉と違い、刀身を摩耗する事無く油を取り去る事が出来ますので、元々は武術関係者に流行った方法なのですが、最近は刀剣店の手入れにも使用される事が多いようです。
 お値段は500円〜1500円程度で、全国の薬局店で購入できます。また、コーヒーサイフォンに使用する、アルコールランプ用の燃料も無水アルコールの場合がありますので、成分を確認して問題がなければ使用可能です。

拭い紙
 打ち粉や古い油を拭き取る紙で、越前奉書紙などの高級紙を使用します。
 値段は結構まちまちで、安い物なら500円程度から御座いますが、余り安い物は疵の元なので、良い物を選んで使用する事が肝心です。また、使用する際には良く揉んで柔らかくし、木屑、皮屑などを取り除いて使用する必要があります。
 通常2枚組で売られており、全国の刀剣店、または模擬刀を扱っている武道具店、お土産屋、骨董屋などで入手可能です。

※ちなみに、写真の拭い紙は、全部500円で購入したものです。同じ金額でも品物には相当な違いが出ますので、自身で確かめる必要があります。

ネル布
 綿製の柔らかい起毛質の布です。表面が非常に柔らかい為、刀身や拵を傷つけずに手入れする事が出来ます。また、拭い紙の代わりに使用する事も可能です。拭い紙と違って何度でも洗って使用する事が出来ますので、大変便利です。
 使用する前に一度洗濯して、薬品や油を落とします。また、洗濯した際は表面の糸くずや綿埃を良く落とし、落ちないようなら交換しましょう。
 全国の大きな手芸店などの生地を売っているお店なら入手可能です。お値段は70cm×100cmで500円前後です。

油布入れ
 丁字油を染み込ませた綿布を入れる容器です。剣術の稽古の時は、これを携帯すると非常に便利です。
 セットで購入すると大抵入っていますが、油で溶けない材質の密閉容器で代用出来ます。

刀枕
 手入れや鑑賞時に、直に下に置くのは埃がついたり、それによって疵が付いたりと危険です。そう言う場合に、刀の下に敷く専用の枕です。一本でも使えますが、二本あると便利です。
 お値段は1,000円〜、全国の刀剣店で購入出来ます。

木槌・角木
 白鞘の柄が抜きづらい時に使用します。角木とは、直接、柄を木槌で叩かなくて良いように使用する当て木の事で、刀身があたる面に鹿皮が張ってあります。
 お値段は3,500〜7,000円程度で、全国の刀剣店で入手できます。常備在庫を持っているところは少なく、大抵は取り寄せになると思います。

※写真の角木は手製の品で、市販品ではありません。

御刀手入具セット
 日本刀を手入れする為の道具がひとまとめになった物です。主に刀剣屋や、大きな刃物店などに置いてあり、だいたい3,500円〜9,000円ぐらいで入手出来ます。
 手入れ用具は、別々に購入すると高くつくので、最初にセットで買い、無くなった物から買い足す方法が良いと思います。
 通常は紙箱入りですが、桐箱入り、桐二段箱入りも御座います。また、居合などに便利なビニールケース入りと、種類は豊富です。

手入箪笥
 これらの道具をひとまとめに保管できる小箪笥です。その他に、鍔や切羽、予備目釘などを一緒に保管できますので、少々大きめで、持ち運びが容易な物が便利で良いと思います。
 お値段は5,000円ぐらいからありますが、1万円前後の物がしっかりしていて良いと思います。家具屋さんやインテリア商品を扱っているデパートなでも入手可能ですが、骨董店などで掘り出し物を手に入れるのも面白いと思います。




 御手入れ方法

(1)
 まず、柄の目釘を抜いて鞘を払います。鞘を払うときは刃先を上に、棟を下にした状態で、まっすぐ棟を滑らせるように抜く事が肝心です。この時、左右にガタつかせますと、鞘内を削ったり、ヒケ疵の原因になります。
  白鞘の場合は、鍔が無くて「鯉口」が切りにくいと思います。そう言う場合は、左手で鯉口を握り、右手で柄を持ちます。そして右手の親指で左手親指の付け根を押し出すようにして鯉口を切ります。
 目釘は柄などに差しておいて、無くならないようにします。白鞘の場合は、小さい目釘穴に目釘を差しておきましょう。

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(2)
 次に、刀を垂直に立てて少し斜めにし、柄下を左手で握り左手の上側を右腕で叩くと刀身が緩みます。
 「ハバキ」を持って柄を抜き、しっかりと「中心」を持ち、刀を落とさないように注意します。この時、刀身に触らないように注意しましょう。
 もし白鞘で刀身が抜きづらい時は、木槌と角木を使って外します。角木の皮が張ってある面を刀身側に向けて、白鞘のハバキ下の台に乗せます。その後、角木の外側の面を木槌で軽く叩きます。ハバキが緩むまで数回繰り返します。

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(3)
 「切羽」、「鍔」、「ハバキ」を外し「中心」を持って、刀身の古い油を「新しい拭い紙」で拭きます。拭くときは、鍔元から切っ先に掛けて拭き、一度では大抵拭ききれないので、数回行います。
 この時、刀身に油が残っていると、後の打ち粉で疵がつきやすくなりますので、入念に行います。
 また、打ち粉を拭いた「拭い紙」では絶対に油を拭かないで下さい。打ち粉の粉と油が混ざって、練り研ぎ剤のようになり、化粧研ぎを痛めてしまいます。
 また、新品の拭い紙は、必ず良く揉んで柔らくし、木くずなどを取り除いておきます。

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(4)
 全面に「打ち粉」を打ち、打ち粉を「拭い紙」でふき取ります。こうして、古い油を完全に取り除きます。これも一度で取りきらない場合は数回繰り返します。大抵、四〜五回程度で取りきれると思います。この時使用する「拭い紙」も、先ほど油を拭き取った紙とは別の物を使用してください。
 注意点としまして、打ち粉は少なからず「化粧研ぎ」を痛めますので、毎回使用する必要はありません。油が酸化して、刀身に「油焼け」を起こす前のみに使用するように心がけるようにしましょう。間隔は使う油の種類にもよりますが、硬質油の場合は三ヶ月〜半年に一度、軟質の場合は劣化が早いので、一ヶ月に一度程度で良いと思います。剣術や居合の稽古で使用した場合は、その場で古い油や汗などの水分を良く拭き取り、打ち粉を打たずに新しい油を塗る程度で良いと思います。
 また、打ち粉を使わない方法としまして、無水アルコールを使う方法があります。これは、ネル布などにアルコールを付けて、拭い紙で油を拭き取る要領で、古い油を取り去ります。刀身に痛みを与えませんので、頻繁に手入れを行う必要のある、居合、剣術などの稽古後に便利です。また、普段でも刀身に与える負担が少ない為、メリットは大きいと思います。

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(5)
 刀身を良く鑑賞し、疵や錆が浮いていないかを良く確認します。疵以外にも、油が付いていると良く見る事が出来ない「地鉄」や「刃文」を鑑賞する良い機会ですので、じっくりと鑑賞しましょう。
 また、研ぎ立ては錆が出やすいので、特に注意しましょう。

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(6)
 丁字油を染み込ませた綿布で満遍なく拭きます。最後に余分な油を拭い紙で軽く拭き取ります。余分な油が付いた状態で鞘に入れますと、内側から染みこんで鞘を痛めます。塗り鞘の場合は、特に注意しましょう。
 この時、使う紙は (3) と同じ物で構いませんが、打ち粉が付いた物を使わないように注意しましょう。拭い紙は打ち粉用と油取り用と分けて使用する習慣を身につけると良いと思います。「油取り用」と「打ち粉取り用」の二種類をきちんと分けて使用しますと、一組の拭い紙で数回使えます。通常の手入れ頻度を考えますと、一年間は使えると思いますので、経済的です。

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(7)
 鍔や切羽を元通りにして柄を付けます。鍔には、「表」、「裏」が、切羽には「上」、「下」と「表」、「裏」がありますので、ご注意下さい。柄は左手で持って、右手で頭を叩くと「中心」が収まります。
 柄に収まったら目釘を打ちます。この時、目釘が入らない時は無理に押し込まずに、もう一度「柄頭」を叩いて、目釘穴の位置がきちんと揃うように確認しましょう。目釘を無理に押し込みますと、目釘や目釘穴を痛めてしまいます。素手で収まらない時は、角木を反対に当てて軽く叩いて納めます。
 最後に鞘に収めます。この時も左右にガタつかせますと、鞘内を削ったり、ヒケ疵の原因になりますので注意します。また、鯉口が硬くて収まらない時は、無理に納めてはいけません。湿度によっては収まらない時もありますので、無理に押し込みますと鯉口を痛めてしまいます。特に白鞘は、膨張、伸縮が激しいので注意しましょう。
 手入れ後は「刀袋」に納めて、湿度、温度の変化の少ないところに保管します。特に湿度が高いと、刀身、拵共に痛めます。拵は余り乾燥しすぎても良くありませんので、適度なところに保管しましょう。また、刀身の保管時は、横にして置くようにしましょう。油が偏らずに保存できます。

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※ 研ぎ立ては錆も出やすいので、一〜二週間程度の間隔で手入れを行いましょう。


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