(前編)



去る平成十六年六月吉日、当サイトの写真を担当して頂いているデジカメちゃんと、千葉県成田市の「房総の村」に行って参りました。
 この「房総の村」は、千葉県の歴史や自然、伝統の技術を体験出来るという大変貴重な施設で、県営と言う事で利用料金もお手軽なうえ(平成16年現在、大人300円)、敷地面積も広く、家族全員で一日楽しめる施設となっております。
 今回の前編は、その施設の一部、「ふるさとの技体験エリア」の更に一部、「商家の町並み」を廻って参りました。その他、茶道体験や、今回は体験できませんでしたが、甲冑の試着体験なども御座います。その模様は「後編」にて記したいと思います。


千葉県会議場(管理棟)

 早速、駐車場から入場門に向かいますと、明治最末期まで使用されました千葉県会議場を再現した管理棟が目に入ります。和洋折衷型の建物は、明治時代の雰囲気を充分に感じさせてくれました。
 その後、入場門となります大木戸へ。この先は房総の古い町並みを再現しており、この大木戸は商家への関門をイメージしているようです。ちょっと面白いなあと思いましたのは、この関門に日付が掛かっているのですが、それが旧暦になっている事。こういう細やかな部分が、江戸時代へのタイムスリップを演出してくれます。


総屋(総合案内所)

 大木戸を潜りますと、最初に「総屋」と名の付いた総合案内所があります。こちらにて、各施設の体験を申し込んだり、千葉県名産品を購入したりできます。また、体験コーナーの詳しい資料なども閲覧する事が出来、非常に勉強になります。ちなみに、この総屋さんの外観は、江戸末期の成田山新勝寺の門前に建てられていた「大野屋旅館」を再現されたそうです。
 こちらで各施設の情報を確認後、いよいよ見学して廻る事にしました。




まずは「商家の町並み」を再現した通りを、順繰りに見てまわりました・・・・

かどや(めし屋)

 最初に「かどや」と名の付いた大衆飯屋。こちらでは、郷土料理の実演などが行われるようです。当日は、残念ながら実演を拝見する事は出来ず、当時のめし屋で使われていた調理場などが再現されておりました。


いんば(蕎麦屋)

 その隣は、蕎麦屋の「いんば」。こちらでは、実際に蕎麦の手打ちが体験出来たり、二階には、実際に蕎麦打ちで使用される道具などが展示されております。店の中も良い雰囲気で、ここで蕎麦を手繰れば、さぞかし上手いだろうと思います。
 二階展示室には、その他にも「鯨のたれ(干し肉)」などという、珍しいものがありました。現在は鯨ではなく牛肉のたれなら手に入りますが、江戸時代には動物性タンパク質を摂取出来る貴重な食材だったのでしょう。

 古人の食文化を覗き見る時に常に感じる事があります。現代人の何と飽食な事・・・。
 この時代、一般的な食事は「一汁一菜」が基本で、殆どが菜の物、つまり旬の野菜がメイン。それに汁がついて、漬け物が少々。魚など月に数回口にするかどうかで、飯は麦飯が基本という事です。農村部に至っては、雑穀類の雑炊が殆ど。それなのに、日々の運動量ときたら現代とは比較にならないものですから、実に燃費が良い訳です。そんな民族ですから、現代の肉食中心の高カロリー食は、様々な病の元凶にしかならない。
 私も古人に習いまして、最近は「一汁二菜」、或いは「一汁三菜」に努めておりますが、たしかにこれでも充分と感じます。また、季節感のある彩り豊かな総菜というものは、質素でも美味いものです。


くるり(小間物屋)

 「いんば」を出まして左手には「くるり」と呼ばれる小間物屋。こちらの二階には、日本髪の結い方の資料や鼈甲細工に関する資料などが展示されております。
 特に鼈甲細工に使用される道具の展示には、非常に興味を覚えました。こういう専門道具というのは、なかなか見る機会がございませんので、大変貴重です。
 最近は動物保護の観点から、こういう日本独自の伝統技法の存続が難しくなって参りました。浄瑠璃人形に使用されます鯨のひげもその一つ。難しい問題です・・・。


上総屋(呉服屋)

 「上総屋」は、「いんば」の隣にある呉服屋で、現在の「ブティック」とでも称せば良いのでしょうか。江戸期の呉服屋の様子が良く分かる展示内容となっております。
 この時代の服装の基本といえば、所謂「着物」ですが、当時の着物は「反物」と呼ばれる布地の巻物の状態で売られておりました。それを呉服屋さんで仕立てて貰う訳です。今でも昔ながらの着物屋さんでは、反物で購入してから仕立ててもらいますが、当時はそれが一般的であった様子が良く分かります。
 こちらの二階展示室では、「藍染め」の詳しい工程やそれに使われる道具類が展示されております。藍の染め回数によって変わる色合いや、他の染料を混ぜて出す様々な色合いなども実際に目にする事が出来ます。ちなみに、こちらから頂いた資料には、藍の事について詳細が記してあります。

 余談ですが、最近、私も普段から着物を着るように心掛けております。良く着物は疲れるというような事を伺いますが、いや、実に着物の楽な事、楽な事・・・。また、帯を締めますと腹に力が入りますし、袴を着ければ、背板が背筋をしゃんと伸ばしてくれます。
 それと忘れてはならないのが履き物。例えば「下駄」ですが、日本古来の歩き方。例えば、体の疲労を極限まで減らしたような歩き方の会得には、下駄が一番かと思います。是非お試しを。


あまのや(菓子屋)

 上総屋を後にしまして、正面に目を向けますと、菓子の店「あまのや」がございます。こちらでは、菓子作りの体験や実演を拝見出来るようです。
 二階には、昔ながらの菓子が数種類紹介されております。それに使われる道具類の展示もあるのですが、その中で目を見張ったのは、打ち菓子に使われる木型です。実に細工の細かい事・・・。また、この型通りに美しく成型し、美しさを出す為の色着けなど、菓子職人の技術の素晴らしさが良く分かります。また、懐かしい菓子類なども拝見でき、駄菓子で育った世代には、童心を思い出す内容かと思います。
 面白いのが、こちらで頂いた資料。餡を作る決め手は、アクの抜き加減が大事と。餡を使う菓子に併せて、アクの抜き加減を決めるのだとか。なかなか興味深い内容でした。


山辺園(茶の店)

 お菓子を食して甘くなった口を程よく流してくれる日本の銘飲料。「あまのや」の隣には、お茶の店「山辺園」がございます。こちらでは、昔の茶葉売りの店を再現した施設で、当時の様子が拝見できます。
 一つ気づいた事ですが、他の店舗に比べまして現代のお店、つまり現代のお茶屋さんと殆ど変わらないのが面白いです。また、こちらには製茶用の道具なども展示しており、これは普段お目にかかれないものですから、貴重な体験です。更にこちらでは、煎茶の入れ方、ほうじ茶の焙じ方、抹茶の挽き方などの実演や体験ができるようです。
 実際に暑い中、商家を廻っておりますと喉が渇きます。なんとこちらの二階には、本当に喫茶のできるスペースが用意されております。和菓子と煎茶以外にも、珈琲やジュース類も用意されており、お子さんから年配の方まで楽しめる空間になっております。
 ふと気がついたのですが、私が摂取する殆どの水分は「お茶」のようです。自宅や仕事中には煎茶、抹茶。外にても最近は便利になりました、ペットボトルのお茶。
 よくぞ日本人に生まれけりです。



葛飾堂(本・瓦版の店)

 江戸時代、庶民の娯楽として欠かせないものに、「絵草紙」などの書物類、また、当時の新聞の役目を果たしておりました「瓦版」があります。こちらでは、当時の本屋の様子を再現しており、二階には瓦版や浮世絵を作る為の版木の作成工程や、当時売られていた書籍の種類等も展示しております。
 また、こちらでは和製本の体験が出来るそうです。
 当時の風俗を知る上で大変貴重な資料ですが、私も武術や日本刀の研究の為に、和装本や古い書籍類を読みます。しかし、旧仮名遣いならまだしも、草書体で書かれました書物は流石に読むのが辛いですね・・・。
 ある意味、当時の文化レベルの高さを感じます。


平群屋(紙の店)

 さて、本を作るには当然紙が必要です。その和紙を扱う紙の店「平群屋」では、紙を使った工芸品や、和紙そのものの製造工程などを、制作用具を取り混ぜて展示しております。
 色々な種類の紙の展示がありましたが、今回始めてみましたものに、竹繊維で作った紙という物がございました。日本では滅多に見る事ができないようですが、中国では割とポピュラーだとの事です。
 紙製品に関しましても、張り子や一閑張りなどの紙を貼り込んだ製品などは、私も好きな手法ですが、紙とは思えぬ頑丈さを生み出す技術に、日本の生活に密接した紙の歴史を感じます。

 和紙といえば、日本刀には切っても切り離せない存在。手入れの時に使用する拭い紙には、「越前奉書紙」が最上と言われております。最上と申しましても、そのまま使用したのでは御刀に疵を付けてしまう程硬いのですが、これを良く揉む事によって、真綿のように柔らかく変貌します。
 これと同じように、柄と糸の間に、「菱紙」と呼ばれる三角形の紙が入っておりますが、この菱紙も、やはり良く揉んだ和紙を使用しております。この菱紙は非常に重要で、この具合によりまして、手の内の決まり具合などが大変変わって参ります。しっかりと揉んで柔らかくした菱紙をキッチリと巻き込んだ柄前は、固からず柔らかからず、誠に具合の良い物です。


下総屋(酒・燃料の店)

 平群屋を出ますと、その前に酒・燃料の店「下総屋」が建っております。こちらは酒の量り売りの店を再現しており、店内には一斗樽などの酒に関する道具類が雰囲気を醸し出しております。特に、最近では酒屋さんでも下げているところは珍しいのではないでしょうか、入り口には酒屋のシンボル「杉玉」が掛かっております。
 また、こちらでは絵蝋燭作りや杉玉作りなどが体験でき、二階には酒造りの工程が模型で解説されていたり、酒屋にて量り売りに使う用具などが展示されております。他にも千葉県の銘酒の酒瓶がずらっと並んでおり、壮観であります。

 酒と言えば、日本人生活に密接し、日常生活にも、また節目節目の儀式にも使われる大変重要なものです。これがなければ始まらないという全国のお父さんも多い事でしょう・・・。


佐倉堂(薬の店)

 酒の酔いが過ぎた時は、隣にお世話になりましょう。お隣は「佐倉堂」薬のお店です。
 当時の医薬品と申しますと、主に薬草や動物、鉱物などの生薬を配合して作られた「漢方薬」ですが、その他にも庶民の間に広まっておりました「民間薬」についての解説などもありまして、興味深い処です。また、こちらでは七味唐辛子等の作成体験ができるようです。

 中国には「医食同源」という言葉がございます。日本も、この中国の思想を多大に受けまして、漢方薬のみならず、食品に生薬を使う事が多々あります。「よもぎ餅」なども、その一つかと思いますが、この漢方薬というものも、余り馬鹿にできないもの。例えば現在市販で売られております薬品にも、この漢方の技術を取り入れた物が結構あります。また、現代医学に限界を感じた方々が、漢方により救われたというお話もチラホラ耳に致します。人間にとってより自然な療法が、時には現代医学をも凌駕するのかもしれません。
 そういえば、刀剣の手入れに使われます「刀油」、こちらの古くからの原料は「丁字」と呼ばれる生薬で、刀油は別名「丁字油」とも呼ばれております。香りの良い丁字油は、古くから愛刀家に愛用されておりましたとか。残念ながら、現在は純粋な丁字油は少ないとの事ですが、こういう処にも、日本人の間に生薬が浸透している事が伺えるかと思います。


きよすみ(細工の店)

 漢方薬に必ず必要な薬草たち。古来の人々は、山には入りますと、このような薬草の他にも、ゼンマイやワラビなどの山菜類、椎茸やシメジなどのキノコ類など、山々の恩恵を受けて暮らしておりました。その恩恵を大事に持ち帰る為に、背中に背負い込む竹かごは、こちらから購入致します。細工の店「きよすみ」です。
 こちらには、背負篭、一斗笊などの竹製の生活用具を販売する昔のお店を再現しており、店内には各種のザルや篭が展示されております。また、二階には竹細工に用いられる材料の竹が展示しており、竹細工を製造する工程も詳しく示されております。
 こちらの体験教室では、ザル、カゴ、篠笛や団扇、張り子、楊枝などの製作が体験できるそうです。

 竹細工に使わます竹は、日本の原材料の中でも、大変重宝するものの一つです。木よりも成長が早く強靱で加工性に優れておりますこの竹は、日本刀では柄と刀身を固定する大事な部品、「目釘」に使われております。昔は寺社において、お守り代わりにこの目釘竹が売られていたとの事ですが、竹の種類や部位の取り方によりまして、目釘は素晴らしい程の強度を見せます。竹の可能性を一番感じる場面かもしれません。


安房屋(畳の店)

 「日本特有の物は何ですか?」こんな事を問いかけられた時に、まず浮かぶのが「畳」ではないかと。そんな日本特有の畳の店「安房屋」はきよすみの隣にあります。
 こちらでは、当時の畳屋の作業場を再現し、それに必要な道具類が所狭しと飾られております。
 体験教室では、畳表替え実演や、畳表を使った花瓶敷き作り、また、い草で畳表を編む体験もできるようです。私が参りました時に、丁度この「花瓶敷き」の体験をやっておりました。こういう物に転換できるあたり、畳のデザインとしての完成度の高さが伺えます。

 日本人の身体運用の基幹に、「畳と正座」がるのではと、私は考えております。正座から行う所作に、日本人が特有に持つ体の使い方の基があるのではと。
 余談ですが、私達、剣を鍛錬するものにとっては、何かとお世話になります畳表。それもこれも、和室の存在があったればこそです。どうぞ、畳が絶えませんようにと願ってやみません。



かとりや(川魚の店)

 江戸時代、庶民が動物性タンパク質を摂る為の食材といえば、魚が主でした。海の幸もそうですが、川にも海に負けないぐらいのうまい食材が豊富です。その美味い川魚の店が「かとりや」です。
 こちらの店先には川魚を入れる篭が並んでおり、店内には天秤棒などが置いてあります。尚、こちらではウナギの蒲焼きやナマズ、鯉料理などが実演、体験できるそうです。

 私が子供の頃、川魚を良く捕りました。銛を片手に、或いは釣り竿を片手に、鮎だとか鰍だとか、捕っては天麩羅などにして食べる訳ですが、その美味い事。
 この恩恵は大変有り難い物で、果たして現代人がこの恩恵を失ってまで得る物が本当にあるのかと、考えさせられます。


すゑや(瀬戸物屋)

 現在でも多く使われております陶磁器、漆器ですが、江戸期にもやはり主流の生活用具でした。瀬戸物の店「すゑや」では、当時使用されておりました食器類、水瓶や漆器の膳など、生活用具が所狭しと並んでおります。また、実際に作陶時に使用しますロクロや乾燥棚まで展示しており、上薬を掛ける前の素焼きものが並んでおりました。
 こちらでは、製陶、土人形、七宝焼きや瓦作りの実演、体験ができます。また、手作りの鬼瓦が実際に販売されており、その味のある表情の出来映えが実に素晴らしいものでした。

 陶磁器は日本の歴史に密接に関係しております。かの太閤、豊臣秀吉公の「唐御陣」所謂、朝鮮出兵は、別名「焼き物戦争」と言われております。
 日本の陶器は、「茶の湯」の発展と共に歩いてきたと言っても過言ではありませんが、ふと、生活の雑器に目を向けましても、茶陶には無い美しさが備わっている事が良くあります。茶道具の陶磁器も、元々は生活雑器だったという事実がございますが、正に原点回帰、「用の美」に勝る物はないという事でしょうか。
 「作為は過ぎてはならない」全ての芸術に通じる事だと考えます。


長柄屋(木工所)

 日本独特の履き物に「下駄」がありますが、下駄を製造販売する木工所「長柄屋」には、下駄の他にも桶や樽などの実演が行われているようです。また、下駄や独楽の制作体験なども出来るそうで、手作りの下駄を手に入れる機会など滅多にありませんので、大変貴重かと思います。

 日本特有の履き物、下駄、草履、雪駄。私も普段の履き物は、靴よりも下駄や雪駄を履く機会のほうが多いです。
 この鼻緒のある履き物は、何でも足にも健康にも良いのだとか。そして、この和物の履き物大きな特徴は「左右がない事」。つまり、右足でも左足でも、どちらでも好きな方を履けるという便利さがある訳です。下駄の場合、左右を偶に違えて履いておけば、歯の減り方も頃合い良く減って参ります。


夷隅屋(鍛冶屋)

 生活用具に欠かせないものに、鍛冶物がございます。包丁、鋏等々、刃物を初めとした鍛冶製品を製造しております鍛冶屋の「夷隅屋」では、鋏を作る工程などを展示しており、店内では実際に火入れをして、包丁や鎌、鍬などの製造実演なども行っております。また、小刀や印刀等の製造体験も出来るそうです。

 日本刀を初め、鍛冶製品は多岐にわたります。良く、刀鍛冶と野鍛冶はどちらが上かとの議論が持ち上がりますが、実に野暮な話です。どちらにもそれに見合った素晴らしい技術が受け継がれており、貴賤をつけるなど無意味以外の何ものでもありません。
 それにしましても、日本刀を初め、和物の鍛冶製品は、何故あんなにも美しいのでしょうか。使い込めば使い込む程、また時が経てば経つ程、その美しさを増してゆきます。
 「成長する道具の美」。感嘆する美しさです。


 この「房総のむら」の施設は、これだけではありません。こちらに紹介しましたのは、入り口付近の「商家の町並み」のみで、他にも現在(平成16年7月現在)NHKに放映されております「新撰組!」の撮影でも使用されました農家や、甲冑試着体験、茶道体験等々・・・・
 その模様は、次回の追加体験を含めまして「後編」として掲載致したいと思います。是非、ご期待下さい!




関連リンク

千葉県立 房総のむら

戻る