|
上の写真は、私の或日の夕食です。特別この日が質素という訳ではなく、ほぼ毎日、このような食事をしております。写真の食事は、所謂「一汁一菜」、具体的には、主食は玄米に麦を混ぜたご飯、おかずは鰯の甘露煮、汁は玉葱の味噌汁、漬け物は大根の根と葉を、自家製の糠床に漬けたものです。現在の食事から考えますと、とても粗末に思えますが、飽食の現代こそ、相応しい食事かと考えております。
「武術に相応しい身体を造るには、何が必要か?」。常々、この事を考えておりましたところ、その一つの答えとしまして、「古来の武人の食を見習う」事が最もな方法ではないかと思いついたのです。現代人よりも遙かに多い運動量をこなす強靱な肉体は、その食を元としているのではないかと考えた訳です。例えば飽食が過ぎれば万病を呼びますし、脂肪が付いて鈍重になった身体では、武術に相応しいとは、お世辞にも言えません。「身体を厳しく律し、強靱で健康な肉体を得る為の食事とはどういうものか?」。私の結論と致しまして考えました日常の食事を記したいと思います。
朝食は、一日の元となりますので、しっかりと摂る事にしております。しっかりと申しましても、分量を沢山摂るという事ではなく、ご飯は上に書きました通り、玄米を主食とし、おかずは納豆や野菜の煮物、或いは前の晩の残りの魚の煮物など、どれか一品、これに味噌汁、漬け物という、夕飯と変わらず、「一汁一菜」を基本と致します。
昼食は、基本的に「夕食までの空腹を紛らわす手段」と考えております。ですので、外でしたら玄米で作った握り飯一つ、家でしたら残った汁に飯を入れて雑炊などにして済ませます。握り飯は中に漬け物を入れたり、味噌で塗り固めたりして保存を良くします。
夕食は、上の写真の通り、「一汁一菜」を基本と致します。おかずは野菜の煮物の時もございますし、焼き魚や煮魚、或いは鶏肉などを食べる時もございます。一回に食します量が少量ですから、上の「鰯の甘露煮」のように、日持ちのするものですと便利かと思います。
一貫しております事は、「玄米食」を欠かさないという事、味噌を摂る事、蛋白質は、種の遠いもの(例えば、一番良いのは大豆などの植物、次に魚類、鳥類と続きます。)を摂るという事です。
玄米食の素晴らしいところは、これだけで殆どの栄養素が摂れてしまう「完全食」だという事かと思います。玄米にはビタミンA、B類、を初め、C、F、Kの稀少ビタミン類も入っております。若干、ビタミンCは少ないようですが、それは他の食事で充分補う事が出来ます。また、白米に比べますと酸化作用が少なく、なかなか腐らないというメリットもあります。白米には白米のメリットがあり、玄米に比べますと炊きあがりも早い上、澱粉質の塊ですから、胃の中に入りますとすぐに糖化して吸収され、エネルギーに変わる大きな利点があります。この場合、梅干しや味噌を同時に摂取する事で消化を助けると更に効果的で、主に戦場食として用いられたそうです。
玄米食は、武家の家訓としてまで、その食を進めております。面白いのは、加藤清正が残した家訓で、「お客に出す食事は玄米が宜しい」としております。戦国時代の武将は、日々の主食を玄米としておりました。江戸期に入りまして、白米が主食になりましたが、当時の人々の遺骨や残っている衣類、甲冑などで、その体格を比べますと、若干、戦国時代以前の人々が大きいという事も、この「玄米が主食だった」という事と全く無関係ではないと思われます。
また、面白いのは江戸中期〜末期に「江戸煩い」、「上方煩い」というものが流行ったそうですが、これなどは白米を主食とした結果のビタミンB1欠乏症、つまり「脚気」であったと思われます。その証拠に、都心部を離れ、食生活も雑穀類が中心に戻りますと、ぴたりと症状が止んだそうです。当時は原因が分からず、手足のしびれを通り越して心筋障害を招き(脚気衝心)、急性心不全で無くなる方も多かったという事ですから、当時も今も、生活習慣病というのは馬鹿にできません。
私の場合、普段は飯茶碗一杯程度の量を一度に摂りますが、例えば身体に過度な労働を強いる時には、この玄米の量によって、一日のカロリー摂取を賄うようにしております。ちなみに、戦国武将達は、一日に五合を二度に分けて摂っており、戦中には、白米を平時の倍である一升を四等分し、三度に分けて二合五勺ずつ、残りを空腹時の間食用として摂っていたようです。戦国武者の運動量が如何に凄いかを窺い知る事が出来ます。
一汁一菜の「一汁」であります「味噌汁」も大変優れた食品です。味噌汁の主素材であります味噌は、米で補えない栄養素、つまり蛋白質や塩分、脂肪、ミネラルを豊富に含んでおり、これにビタミン類が豊富な野菜や貝、海草類を入れる事によりまして、玄米で不足する栄養素をいっぺんに取れる優れた食品となる訳です。また、味噌は発酵食品ですので、その麹菌、酵母、乳酸菌などの働きで、消化を助け、整腸作用、疲労回復、造血作用等々、様々な健康効果が期待出来るようです。
ただし、注意しなくてはならない事は、現代人の場合、昔と違いまして発汗量が違いますので、「塩分」の摂取量をコントロールする必要があります。
洋食と和食の大きな違いは、「あくまでも主食は米であり、その他の食物は副食である」という事に尽きると思います。ですので、この一汁一菜の唯一のおかずであります「一菜」は、米や味噌で補えない栄養素を摂るという目的が主になります。一番良いのは、「季節の素材」を食べる事。野菜にしても魚にしても、旬の素材を用い、少量でも栄養価が高く、バランスの良い素材を選択します。
写真は「鰯の甘露煮」ですが、鰯は栄養価が高く、蛋白質も豊富です。また、鰯などの魚類に含まれます脂肪分は、所謂「不飽和脂肪酸」に分類され、体内に吸収されやすく、また、燃焼しやすいという特性を持っております。ただ、欠点としまして、大変酸化しやすい性質をもっておりますので、ビタミンCやEと一緒に摂取する必要があります。よく、秋刀魚に酢橘等の柑橘類や大根下しを掛けて食べますが、これはこの「不飽和脂肪酸」を酸化させない効果がある訳です。また、煮魚に生姜を入れますのも、単に臭みを消すだけでなく、抗酸化作用の効果もあるのです。更に味噌汁や玄米と一緒に摂れば、非常に効率の良い食事になります。
漬け物も日本の食卓には欠かせないものですが、特に一汁一菜の食事では、不足しがちな繊維質を補う事が出来ますので、大変貴重な食料となります。また、糠漬けの場合、糠に含まれますビタミン類やミネラルも加わりますので、非常にバランスの良い食品となります。ある意味、生で摂るよりも効率が良いと言えます。
ただ、味噌汁と同様に「塩分」の摂取量は注意する必要があります。最近の市販品は減塩されたものが多いですが、自分で漬ける場合にも注意が必要です。
このように、玄米食を中心としました「一汁一菜」は、古人が英知を積み上げて考え出しました大変素晴らしい栄養食なのです。古来より武芸を極めようとする者達が、その肉体を強靱にしようと食すには、大変適した献立だった訳です。「飽食を禁じ、粗食を旨とする」という言葉の意味も、単なる精神的な要素、道徳心から出た言葉ではなく、栄養学も進歩していない古来から培ってきた「知恵」なのだと、有り難い思いと共に、畏敬の念を抱きます。
私も現代人の一人ですので、時として獣肉を食したい衝動に駆られます。その時は、素直に本能に従う事にしておりますが、それとて、一月に一度もあれば良い方で、大抵はこの食事で満足しております。もちろん、「自身を厳しく律す」という意味もあり、粗食を実践しておりますが、この限られた献立に工夫を凝らす事によりまして、更に「自身の身体」を深く考えるようになりました。
この食事は、現代人すべてに適しているのか、それは分かりません。或いは、私のように毎日の食事に採用するのは、逆効果もしれません。ただ、月に何度かでも、「古来の武将、武芸者が、屈強な身体を造り上げた食事」を摂りながら思いを馳せるのも、現在の古武道者の楽しみではないでしょうか。
|