其ノ二 「筋力について」


 古武術に相応しい身体というものを考えますに、私は特別、筋力を鍛える必要は無いと考えております。鍛える必要が無いと言うと、多少誤解を招くかもしれませんが、つまり、改めて筋肉の発達だけを促すようなトレーニングなどを行わなくても、「武術の形」を行えば、それだけで必要な筋力が、必要量蓄えられると思うのです。もちろん、これには個人差がありますので、明らかに「筋力が上がった」と目に見えて分かる方もいらっしゃれば、見た目の変化が殆ど無い方もいらっしゃいます。ですが、「その方に必要な筋肉量」を得られる事は、間違いのない事かと思います。
 例えば、私自身の身体を例えに出すのは、大変お恥ずかしいのですが、次の写真は、私の筋肉量の写真です。

 ご覧頂きました身体を造りますのに、私は一切の「筋トレ」や「トレーニング機器」の利用などを致しておりません。すべて、古武術の「形」によって、自然と造られたものです。また、良く重たい刀や木刀で筋力を造ろうとされる方もいらっしゃいますが、私の場合、特別に重たい木刀や刀を使っている訳でもありません。(一部の稽古で重量のある木刀を使用しておりますが、それは筋力の発達を促すものではなく、身体の発達には直接関係がないと思っております。)
 私自身も、十代、二十代の頃は、あるプロスポーツの候補生をしておりました関係で、古武術の稽古の他にも、かなりハードな肉体強化を行っておりましたが、年を経た現在、古武術の形のみで得た身体の方が、むしろその頃よりも筋力、体力共に充実しているように感じます。つまり、十代、二十代の西洋式で造った身体よりも、三十代、四十代の古武術の形によって造った身体の方が、その効果を充分に引き出す事が出来るのではないかと考える訳です。
 この、古武術の形で造られました身体の利点はと申しますと、色々ございますが、その一つは持久力かと思います。また、通常では鍛える事の難しい「大腰筋」などの深層筋なども、効率よく発達させる事が出来ます。もっとも特筆するべき点は、武術では「臍下丹田」で馴染み深い、「腹力」を鍛える事が出来る事かと思います。以下の写真は、私の腹力を示したものです。


腹に力を入れた状態を、正面から見た所です。右が力を抜いた状態、左が腹力を張った状態です。


こちらは横から見た状態です。同じく、右が力を抜いた状態、左が腹力を張った状態です。

 腹の強さは、この脱力時と圧をかけた状態の差が大きい程、腹圧が大きく良いと言われております。私などは大したことは御座いませんが、凄い方になりますと、圧をかければ風船のように、引っ込めますと穿った穴のようにと、その差は絶大となり、腹力も一段と大きなものになります。決して、脂肪によって膨れた腹と同じではありません。私の場合は、体脂肪率で申しますと14%程ございますので、結構脂肪が多い方ではありますが、腹力の凄い方の腹は剛柔整ったものです。

 また、上の写真の赤丸の部分は、脇腹の筋肉、斜腹筋と呼ばれるものですが、この筋肉の厚みを出しますのも、通常では鍛える事が非常に困難です。例えば腹筋、つまり、腹直筋が割れる事に憧れる方が沢山いらっしゃいますが、腹直筋の場合、単純に体脂肪率を下げれば、例えそれ程発達しておらずとも、割れた筋肉が顔をだします。しかし、実際はこの斜腹筋の方が鍛えづらく、また古武術では重要な筋肉となると思います。良く、江戸時代の人物画、或いは近代に入りましてからでも、明治時代の人物写真などを拝見しますと、皆さん立派な「腹」をお持ちですが、古来の人々の生活の中には、この「腹力」をもっと有効に活用した身体運用法があったのではないかと考えます。最近話題になっております古式の歩法や、もっと身近な着物を着る事自体も密接に関係しているように思います。
 更にもう一つ利点を上げますと、「身体の故障が少ない」という事が上げられると思います。西洋式の筋力強化やスポーツなどでは、肉離れ、腰痛、関節痛などの故障が多く、身体の消耗も激しいですが、真に古武術の理合に即した運動法であれば、故障の度合いはかなり少なく、また、身体の消耗も大変穏やかなものとなります。これは、一カ所に負担が掛かるような操法が少ない為だと思います。私自身、古武術の稽古で故障をした事は、自身の不注意からの捻挫や打ち身以外、殆どございません。

 ただ、古武術にとって重要な事は、「筋力を発達させる為に鍛えるのではなく、結果的に筋力が発達する」事かと思います。特に古武術の場合、筋力はさほど重要ではなく、その使い方、つまり、身体全体の運用の妙こそが最重要かと思うのです。筋力が発達したからといって、筋力に頼った身体運用では、いつまで経っても古武術の術理は体得出来ない筈です。私はこれからも、筋肉を発達させる為だけに費やす時間があるのなら、すべて「形」の稽古に傾けたい、そう思っております。


 



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