其ノ十 「ハバキについて」


 いよいよ第十回目です。正直、私は五回も続けば御の字だと思っておりました。ですが、皆様から反響や励ましの声を頂き、「これは可能な限り続けなくてはいかん」と思い直し、私の能力の可能な範囲になりますが、頑張って続けていきたいと思っております。今回も前回に引き続き、読者の方からお題を頂きました。今回は「ハバキ」です。

 ハバキは一見しますと大変地味な存在ですので、なおざりにされがちですが、本来は刀にとって大変重要な部分です。このハバキの出来不出来によって、刀の存続にも関わるほどの問題を引き起こす場合もあるのです。
 さて、ハバキとは本来、どういう役割を持っているものなのでしょうか。まず、ハバキの事を記しますには、鞘の存在を無視する事が出来ません。刀とは本来、鞘の中に収まっている時は、鞘内のどの部分とも当たらずに、宙に浮いた状態になっております。これが一部でも鞘内と接触しておりますと、その部分から錆が発生して刀を痛めてしまいます。ハバキとは、この鞘内で刀を宙に浮かせる為の「パッキン」の役割を果たしているのです。ですから、このハバキの出来が悪いと、「鞘当たり」を起こしてしまい、刀に大変宜しくない状態になってしまいます。良心的な刀屋さんは、大抵拵を作る時に、「ハバキと鞘に一番お金を掛けなさい」と助言してもらえますが、それほど重要な部分だと言う訳です。
 ハバキを作る職人さんは、「白銀師(しろがねし)」と呼ばれ、ハバキを専門に作っておりました。ハバキはその性質上、必ず一本々、その刀に合わせて作られております。作り方も、鋳物ではなく、板状の金属を槌で叩いて成型する方法を用いまして、非常に技術を要する作業になります。また、表面の「ヤスリ目」には、地域や職人さんによって特色があり、形なども特色があります。また、このヤスリ目によって、「鯉口」から刀が「鞘走る」事故を少なくする働きもあります。
 ハバキの素材となります金属は、主に、「銅」、「真鍮」、「銀」等で作られます。「金製」のものもありますが、金は硬度が非常に柔らかい為、そのままに使用する事は殆ど無く、大抵、銅などに金を被せた、いわゆる「金着(きんきせ)」にして使用されていました。
 打刀用のハバキは、刀の「刃区(はまち。刃の中心側の終点)」を包み込むように作られます。つまり、刃区をハバキの中にしまい込み、守る形になっています。これも出来が悪いハバキですと、刃区を欠いたりしますので、注意したいところです。ちなみに、模擬刀の「合わせハバキ」は、この刃区がハバキの上に乗っかった状態になっております。ので、無理に柄をはめたり、合わない鍔や切羽と交換したりしますと、刃区を痛める事になります。これは真刀にも起こりますが、模擬刀の場合は、ハバキの構造と刀身の材質で特に欠きやすいので注意しましょう。
 このように、一見しますと余り意味の無いものに感じる部分でも、日本刀に取りましては「無駄な部分は一つもない」と言ってしまっても良いと思います。

 最近の模擬刀や現代刀の拵を拝見しますと、余りハバキにバリエーションがないように思いますが、昔の拵の中には、大変凝ったハバキを目にする事も珍しくないと思います。聞いた話によりますと、昔は暗黙の了解で、古刀は「二重ハバキ」、新刀は「一重ハバキ」と、その刀の格によって使い分けていたようですね。また、最近は銀製のハバキが多いですが、本来は銅製のハバキの方が、金属が適度に柔らかいですから、刃区や中心の「ハバキ下」への当たりも柔らかく、負担が少なくて良いと思います。もちろん、鞘の鯉口への負担も、微量ですけど銅のが優れているように思います。ところが、最近の刀剣屋さんには、銅製ハバキは作ってすら貰えないところも多いです。現代刀も、その殆どが銀製なのを見ますと、少し狭苦しい感じが致しますね。本来は、金にしろ銀にしろ、着せて使うのが定法だったのでは無いでしょうか。
 余談なのですが、「打ち刀」のハバキと「太刀」のハバキでは、明確な違いがあります。太刀のハバキには、実は「鎬」があるのです。模擬刀の太刀などを見ますと、流石に、ハバキまでこだわって「太刀ハバキ」にしているモノは無いようですね。やはり、打ち刀からの流用で済ましているようです。かといって、ここまでこだわりますと、コストがグーンと上がってしまいますので、難しい所だと思いますが・・・

 刀剣商界の中で最も著名な「柴田光男」先生が、その著書の中で「ハバキは拵の他の部分とは違い、何百年と持つものですから、なるべく良い物を作りましょう」と仰っております。皆さんも、拵を作ったり現代刀を新作で作られる場合は、良いハバキをお作りする事をお奨め致します。

 それでは今回はこのへんで!



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