其ノ七 「下緒について」


 日本刀雑感、第七回目の今回は、「下緒について」です。
 下緒は「組紐」が主に使われます。組紐と言いますと、「京組紐」、「伊賀組紐」、「大津組紐」等が有名で、それぞれ刀の下緒の他に、現在でも「帯締め」など、多彩な製品を生み出しております。余談ですが、帯締めが本格的に使われだしたのは、実は明治以降だそうです。勿論、帯締め自体は江戸中期頃からあったのですが、廃刀令によって下緒が余った為に、それを帯締めに流用したのがキッカケだったようですね。
 その他にも、「革紐」などを使用した下緒も見られます。

 下緒の歴史は古く、古墳時代には既に原型が見られるようです。現在の形式の下緒が本格的に見られるようになったのは、やはり武士が本格的に台頭しはじめた鎌倉時代からのようです。この時代は、鎧にも多くの組紐が使われ、組紐の形式もある程度の基準が出来たようでが、安土桃山期になりますと、世の安定と共に、組紐も多彩な技法が生み出されました。色合い的にも煌びやかなものが多々見られるようになります。その後、江戸期を迎えますと形式化された武家社会の影響下、下緒も本格的に基準が確立されました。
 下緒の種類は、それこそ多彩で、組紐の種類だけでも、「平組」、「丸組」、「角組」、「貝の口組」、「大和組」、「笹波組」等々・・・挙げていたらキリがない程です。また、長さや幅、色などは、諸藩の特徴や、拵の形式などによって様々な種類があったようです。

 さて、下緒と申しますと、現在では大抵、鞘に結ばれたままの状態で見る事が多いかと思います。実際、時代劇などを見ますと、結ばれたままで刀を差している事が多いですね。ただ、元々下緒の主な使い方は、「不意に刀を抜き取られない為」或いは、「激しい動きの中で、刀を取り落とさない為」に、鞘や帯に絡ませて使う事が主ですので、そのまま結びっぱなしだった事は殆ど無かったというのが通説になっております。また、下緒を帯に結ぶ際の方法で、出身藩や剣術の諸流派が分かるぐらい特徴があったようです。これは現在でも、剣術・居合の流派で、やはり下緒の捌き方に特徴が御座います。
 その他にも下緒には色々な使用法があります。元々、武士というのは現在で言う「軍の兵隊」にあたる役割を持っておりまして、身に纏うものは、何でも無駄なく有効利用しなくてはならなかったのは、現代の軍人と同じだと思います。ですから、下緒も刀を固定するだけではなく、いざという時に襷に使ったり、他にも柄握りを確かにする為に、短くした下緒を鍔穴に通して輪にし、そこに手を通して「手溜まり」にして使ったりもしたようですね。これは現在でも試斬の時に行う方がいらっしゃるようです。
 また、下緒を「形」の中に組み込んだ流派も御座います。どの流派か失念しましたが、「幕末の三大流派」で有名な、「鏡心明智流」の「闇中家中斬」という形に似た感じの形で、鞘を切っ先に引っかけ、下緒を口にくわえ、闇の中を探り、敵に遭遇した時に下緒を離し、鞘を落として敵を突くという形です。たしか忍術系の流派だったと思います。
 流派によっては、初心者は下緒を使用しなかった所もあったようですが、全剣連で下緒の使用が奨励されてからは、殆どの流派で使用しているようです。もちろん、古流の創始から、全ての鍛錬者が使用している流派もたくさん御座います。

 江戸期に入りまして本格的に形式化した下緒ですが、私が思いますに、やはり実用と言うよりは武士達のファッション性を重視したものに変わっていったんではないかと思います。これを言いますと刀装具全体に言えるのですが、下緒はお手軽に交換できる上にバリエーションも豊富でしたので、特にその傾向が顕著だったのでは?と思われます。
 以前にも書きましたが、宣教師のルイス・フロイスが日本の見聞を書き留めました「日本覚書」に、下緒を「無意味な紐」と称しておりましたが、武士に取りましては、下緒はかなり重要な小道具だったようです。その証拠に、領主が褒美として使用する事も度々あったようです。新撰組の土方歳三も、戊辰戦争の際に仙台入りをした時、伊達候から拝領されました水色の下緒を、これまた会津候から拝領の葵紋越前康継に結んでいたようです。どうでも良いような無意味な紐を、わざわざ下賜する訳がありませんから、やはり重要な小物だったのでしょうね。

 私も下緒は重要視しております。もちろん形の中での役割もそうですが、やはり「拵の華」になりうる小物として、こだわりたい処ですね。つい先日も、私の佩刀用に下緒を探しておりましたが、良いものを見つけました。江戸末期の物だそうで、正絹製の二色手組で大変素晴らしいものでした。いっぺんで気に入ってしまい、殆ど衝動買いです。これを付けただけで、刀装具の格が一段上がったように感じます。やはり下緒は重要なポイントですよね。
 現在でしたら、その日の気分によって下緒を付け替えるなんて事も良いのではないでしょうか。現在の模擬刀や現代刀の拵に着いている下緒は、大抵、柄糸とお揃いの色、素材で出来ておりますが、実際は「献上拵」などの形式的な拵なら兎も角、平常差しの場合は色々な下緒を付けていたようです。
 最近は刀剣屋さんでも、かなりの種類を取り揃えているところも御座いますので、比較的手に入りやすくなったのではと思います。その他にも骨董屋さんで時代物の下緒を入手したり、着物屋さんの「帯締め」を流用するのも面白いかも知れませんね。また組み紐の産地では、やはり多彩な下緒を現在でも作っておりますので、素晴らしい物に出会える可能性も大変高いと思います。
 皆さんも、是非愛刀の拵に、色々な下緒を差してお試し下さい。



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