悪いというか、まあ、ヤな感じ。


ドア【出口】の外は、中だった。
ウロウロしてみたら、【出口】のドアは他にもいくつかあった。
そのうちの、その、ひとつ。
やっとの思いで出てみたら、入ってた。

地面には草が生えている。
草が生えてるんだから、床じゃなくて地面だ。
でも、ここは外じゃない。中だ。
木も生えているし、少し離れたところには、デカイ池も見える。
見上げれば、空がある。丸く切り取られた空。
まるで外のようだが、でも、ここは中。
誰かに確かめる必要なんてない。中なんだ。
俺は近くの壁を叩いてみる。固い。
ポケットにあった磁石を当ててみる。くっついた。
鉄だ。鉄の壁だ。鉄の壁で囲まれた、中だ。

「大きな鉄のパイプをイメージして下さればよろしいのです」
と、その女は言った。ダークな青いワンピースを着た女だ。
「あなたは今まで、そのパイプの薄い鉄板の中にいたわけですね」
ダークな青いワンピースの女はそう言って、俺に石ころを渡す。
俺と女は、さっき言ったデカイ池の畔に並んで座っていて、俺は渡された石を池に投げる。
「今、あなたが居るのは、パイプの空洞の部分、ということになります」
俺の投げた石は、池の中に、波紋も立てずに吸い込まれた。
音もしない。
俺はその女が裸足なのに気付いた。
俺も裸足だ。
「裸足なんすね」
俺は言ってみた。女は、ええ、とだけ答えた。
「靴、履かないんすか?」
女は、俺の顔を見る。
「あなただって、履いてません」
「俺は、たまたま今は履いてないだけっすよ」
「そうなのですか?」
「そうなんすよ」
女が、そっと笑う。それからまた、俺に石ころを渡す。
俺は、それをさっきと同じように池に投げる。
「なぜ、あなたは、石を池に投げるのですか?」
「こうやって、池の畔に座って、手に石ころを持っていたら……」
そう言いながら、俺は自分で石ころを探す。
でも、一つも見当たらない。
女が、また、石ころを渡してくれる。
俺は、それを池に投げる。
「こうやって、池に投げ入れるのが、正しい世界の在り方ってもんすよ」
「そうなのですか?」
「そうなんすよ」

俺はさっき開けて入ってきたドア【出口】の前に戻る。
なんだかすごく気分が悪い。
悪いというか、まあ、ヤな感じ。
黄昏時に目を覚ました、あの感じ。
ルールブックを広げてみる。
【運良く青いワンピースの女に会ったら、彼女をミカと呼ぶこと】

再び池の畔。
「その服、似合ってますよ、ミカさん」
女は、俺に石ころを手渡しながら頷く。
「あなたの素敵なあの靴は黒い猫よ」


©  Annatto Shiquiso



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