手の石が作動し全ては吹き飛ぶ。


「大佐に会えば、あなたの猫は取り戻せるわ」
「猫じゃなくて靴ですよ」
「見えるかしら?」
俺は女がちらりと向けた視線の先を見る。
灰色の、先の尖った岩の山があった。
てっぺん近くを、きっと5メートルはありそうな鳥みたいなものが旋回している。
「山?」
「城よ。大佐の城」
「大佐……。軍人なんですか?」
「昔はね。今はただの年寄り。自分で歩くことさえ出来ないわ」
「で、あの飛んでるの、鳥じゃないですよね?」
女は大佐の城の近くを旋回する〈鳥〉をちらっと見た。
それだけ。見ただけだ。
女は俺に石を手渡した。
「大佐に会ったら、これを」

俺は、尻のポケットから石を取り出し、右手で握った。
「今、手に持ったものは何だ?」
ソファに座っている俺に迫っていたジジイはそう言って車椅子を止めた。
俺が石を握ったまま立ち上がると、ジジイはほんの少し車椅子を後退させた。
「石だな。貴様、石を握ってるな?」
俺は車椅子のジジイを無視して、靴を捜した。
ざっと見回したが見当たらない。
扉付きの戸棚があった。開けてみたら中は水槽になっていた。
見たことのない、エビのようなものがいて、水槽の底で目玉をユラユラさせてる。
「オモチャじゃないぞ、本物だ」
俺は振り返って、ジジイを見た。
ジジイは、さっきよりも更に距離を置いた場所で俺を見ていた。
「そいつだけじゃないぞ。ここには他にも色々と居る。しかも全部本物だ」

「既に失われた動物たちが、大佐の城にはたくさんいるわ」
「失われたというのは?」
「絶滅したって意味よ」

俺は、窓際に歩いて行き下を見た。
プールがあって、アザラシみたいなものがいた。
クジラみたいにデカイ。死んで浮いているだけみたいにじっとしてる。
入り口とは違うドアに向かった。
開けたら、頭が天井のあたりにあるダチョウのような鳥が突っ立っていた。
鳥の目で俺を見下ろしてる。
俺はドアを閉めた。
ジジイは、俺との距離を取るように車椅子を移動させながら、後ろから俺に言う。
「全部本物だ」
ダメだ。自分で捜しても埒があかない。
俺はジジイを見た。ジジイがへへと笑う。
「その石を使わないと約束するなら、猫は返そう」
もううんざりだ。
「靴だ!」
ジジイはゆっくりと首を振った。
「貴様の靴に関する決定はもう覆りはしない」
あの猫が来て、俺の裸足に何度も頭をこすりつけた。

君ノ靴ハ既ニ脱ガサレタノダ。最早、君ガ靴ヲ履クコトハナイノダヨ。

そして、俺は見た。
そう。手の石が作動し全ては吹き飛ぶ。


©  Annatto Shiquiso



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