暗い場所に住むアイツ

暗い場所に住むアイツは、今日も笑ってる。
僕らの毎日のいろいろを眺めて、嘲るんだ。
遙か昔にどこからかやってきて、あの場所に住み着いた。
黄色い瞳と、濡れた皮膚。地面にベチャっと、手も足もない。
笑うための口だけが立派に裂けて、歯はガタガタ。
絶対に人間じゃない。
宇宙人とか、悪魔とか、人類以前の地球知的生命体とか……。
「創造主だよ」
アイツは堂々とそう言ってのける。
大したもんだよ、全く。
「この私が、君ら人間を造ったんだ」
アイツが「私」なんていうのは許せない。
鏡を見ろ。「オレ」か、良くて「オイラ」だろう。
ああ、でも、そうなんだ。
アイツの言ったことは本当。
決定的な証拠があって、それは誰にも否定できない。
創造主なんだ。
この暗い場所に住む、醜くおぞましい、そして少し臭いアイツが。
「もっとも酷いと思うものを造った。それが君ら人間さ」
アイツがゲハゲハと笑う。
僕は持ってきたポリタンクの蓋を開ける。
灯油さ。灯油で充分だろ?
それをドバドバとアイツの上にぶちまける。
「私を焼くつもりだな?」
アイツは全然平気で、面白そうにそう訊く。
僕は、空になったポリタンクを投げ捨て、油まみれのアイツから少し離れた。
それから煙草に火をつける。
気合いを入れて、落ち着くんだ。
生きてるものを焼き殺すのは、いくらそれがアイツでもいい気はしない。
アイツはやっぱりゲハゲハ笑いながら、できやしない、できやしないさ、と繰り返す。
甘いよ。
僕は火のついた煙草をアイツに向かって投げた。
ほら、炎上。
暗い場所が明るくなった。
燃えてる燃えてる。
アイツはもうゲハゲハとは言ってない。
かと言って、ギャーギャー悲鳴を上げてるわけでもない。
炎を載せたまま、こう、黙ってノソノソ動き回っている。
熱くないのか?
けど、燃えてるのは間違いない。
このままだと直に灰になってお終いだ。
だから、何とかしようと、とにかくノソノソ動いてる。
そんな感じ。
ただ、まあ、あれじゃあどうしようもないよ。
炎は平気で燃えている。
そのうちノソノソもなくなった。
もう、ただの焚き火と変わらない。

なんだか、子供の時、浜で流木集めて燃やしたのを思い出す。
予想外に大きな炎で、離れていても顔が熱くて、ちょっと怖かったよな。

燃え尽きた。
僕は焼け跡に近づき、焦げた地面を靴の底で引っ掻く。
何もない。骨のヒトカケも残ってないよ。
創造主って言ったって、所詮こんなもんさ。
僕はアイツそっくりに、ひとりでゲハゲハ笑う。

©  Annatto Shiquiso



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