ガルボ・ナッス

ガルボ・ナッスに会った。
ガルボ・ナッスは東洋人だ。
髪が長い。と言うか、切ってない。
「一年ほどです」
ガルボ・ナッスは言う。

ガルボ・ナッスは茶色い日本のキモノを着ている。
「伝統的な染めの技法です」
冬でも、そのキモノ一枚で過ごす。
でも、ガルボ・ナッスはすごい寒がりだ。

ガルボ・ナッスの目は細い。東洋人だからだ。
「中国人ほどじゃありません」
ガルボ・ナッスは茄子を持っている。
ガルボ・ナッスが両手で茄子を差し出す。
ガルボ・ナッスの茄子は美味いとみんなが言う。
どこで取れるのか、ガルボ・ナッスは教えてくれない。
買ってるのかも知れない。
「作っています」
ガルボ・ナッスが言う。

ガルボ・ナッスは珈琲が好きで、日に十杯は飲むとみんなが言う。
「でも本当に好きなのは、ココアです」
ココアを飲み過ぎると鼻血が出るので、控えている。
と、ガルボ・ナッスは回りくどく長々と説明した。

僕は、ガルボ・ナッスに茄子をもらって家に帰った。
ガルボ・ナッスの茄子で、茄子のバター焼きを作った。
奥さんと二人で食べた。
ガルボ・ナッスの茄子は、みんなが言うとおり、ホントに美味かった。

ガルボ・ナッスに会いたいわ。
奥さんが言った。

ガルボ・ナッスにまた会った。
最初に会ってから二ヶ月後で、とても寒かった。
ガルボ・ナッスは死刑になるところだった。
柱に縛られていた。
柵に囲まれた中に独りでいた。
茄子は持っていなかったけど、茶色のキモノは来ていた。
まわりには野次馬が大勢。
ガルボ・ナッスの茄子を食べて死んだ人がいた。
だから、ガルボ・ナッスは死刑になると言う。

処刑人が槍を持って現れた。
野次馬がみんな緊張した。
ガルボ・ナッスは、いつもと同じ顔だ。
処刑人は槍を構え、空に向かって叫んだ。
「ガルボ・ナッスよ、お前の茄子はホントに美味かった!」
そして、思い切りガルボ・ナッスの胸を槍で突いた。
ガルボ・ナッスは死んだ。
処刑人は泣いていた。
野次馬達も泣いていた。
僕も泣いて、奥さんも泣いた。
猫もスズメも犬もカラスもみんな泣いた。
ガルボ・ナッスの茄子を食べた者も、食べたかった者も。

王様が変わって一年後、町の広場に銅像が建った。
両手で大きな茄子を捧げたガルボ・ナッス像。
除幕式を、僕と奥さんはテレビで見ていた。

僕と奥さんは同時に気付いた。
中継のアナウンサーのずっと後ろの方。
茶色の服を着てる。
大きな茄子を両手で捧げるように持っている。
間違いない。
ガルボ・ナッスは生きていた。

©  Annatto Shiquiso



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