secrets of the beehive II

管理人が目の前の歩道を自転車で帰っていった。
俺は珈琲代を払うついでに煙草を買い、マンションに向かう。
そこは部外者御免のオートロックマンション。
だが、俺には会社が用意した合い鍵がある。
必要なものは全て会社が揃えてくれる。
俺はただ現場に行き仕事を片づけるだけだ。
7階。
エレベータは使わない。会社の規定だからだ。
いつもどおり非常階段を登る。
晩飯の匂いやテレビの音のする共有廊下を歩き703号室。
呼び鈴もノックも必要ない。
俺は鍵穴に鍵を差し込む。と同時に誰かが中からドアを開けた。
子供。
男だか女だかわからないくらいの子供だ。
上目遣いで俺を見る。
動揺している俺のことなどお構いなしに子供は言う。
「ママはいません」
そんなことは分かってる。
出直そう。もっと夜遅くなるまで待った方がいい。
そう思って、差したままだった鍵を抜く。
「でも、もうじき帰ります」
その言葉で俺は初めてこの子の正体に気付いた。
手帳を開けて確かめる。
やっぱりそうだ。
なるほど、実際にあることなんだな。
俺は子供に言って部屋の中で待たせてもらうことにした。
邪魔が入らないようにドアには鍵を掛ける。
子供は奥の居間で電気もつけず一人でテレビを見ていた。
昔のアニメの再放送だ。
俺は灰皿を見つけ、煙草に火をつける。
アニメを見ている子供の後ろで煙草を吹かしながら、一緒に「ママ」の帰りを待った。
二本目の煙草に火をつけた時、子供が突然振り返り、立ち上がった。
「ママ、おかえり!」
見ると、俺のすぐ後ろに女が一人立っていた。
「ずいぶん待たせるものなのね」
女は俺に言った。
「あんただけじゃないんだ」
俺は煙草を消し、ポケットからリングを取り出した。
いつ見ても光るドーナツにしか見えない。
子供がその光を嬉しそうに眺める。
俺はリングを女の頭の上にそっと浮かべた。
「この子の分は?」
頭にリングを浮かべた女が不安げに訊く。
「さあね。この子は俺の管轄じゃないからな」
俺は子供を見た。
子供はニッと笑うと隠し持っていた自分のリングを取り出した。
女は驚いて口に手を当てる。俺もちょっと驚いた。
子供は自分のリングを頭に載せると、女に駆け寄りその手を取った。
その瞬間、眩しい光が二人を包み込む。
会社の規定にサングラス着用があるのはこれが理由だ。
けど、光は現れたり現れなかったりする。
その違いが分からない。
今度、統括にでも訊いてみよう。
光の中に消えていく二人を見ながら、俺はそんなことを考える。

©  Annatto Shiquiso



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