魚の腹から携帯電話

日曜日、堤防に出て魚を釣る。
家に帰って、魚拓を取って捌いてみたら、魚の腹から携帯電話。
水洗いして、試しに掛けてみたらちゃんと繋がる。
「誰?」
「オレ」
「携帯買ったの?」
「いや。出て来たんだよ」
「出てきた?」
「うん。魚釣ったら、腹から」
「へえ」

携帯電話を皿の横に置いて、魚の煮付けで飯を食う。
テレビで、みのもんたを見る。
あんな、司会ばっかりしてたら飽きるだろう。
余計なことを思う。
皿の横の携帯電話が鳴った。
「はい」
「アタシ」
「ああ。なに?」
「その携帯ってau?」
「ボーダフォン」
「そっかあ」
「買ったわけじゃないから」
「そうよねえ」

月曜日、昼休み、工場長のミノダさんが「お!」と言う。
「ついに携帯、買うたんか?」
「釣った魚の腹から出て来たんですよ」
「魚の腹から?」
「はい」
「そやけど、こういう場合どうなんやろな?」
「何がです?」
「やっぱり落とし物になるんか?」
「さあ、どうなんですかねえ?」
「トクシュなケースやからなあ」
ミノダさんは空の湯飲みを持って席を立った。
携帯に溜まっていたメールを読み進める。

火曜日、雨の中、待ち合わせの映画館に行く。
メールにあった2週間前の待ち合わせ場所。
「映画観るの?」
「いや。そうじゃない」
車の中から映画の看板だけ見て帰る。

水曜日、朝5時にメールの着信音で起こされる。
新しいメールが来た。
もう一度会いたい。
そうあった。
日時も場所も指定はなかった。

木曜日、発注がなくて仕事が休みになった。
悩む。
もう一度会いたいと言う相手に返事を書くべきか。
その場合、正直に事実を伝えるのか。
それとも、この携帯の持ち主になりすますのか。
いっそのこと放っておくか?
いや、それはダメな気がする。
結局「土曜日にあの映画館で」とだけ書いて送る。

金曜日、出勤したら休みだった。
誰か偉い人の誕生日らしい。
ということは木曜日から四連休。
けど、明日のことを考えると気が重い。
と言うか落ち着かない。

土曜日、ひとりで映画館のロビーに陣取る。
それらしい、連れのない女を探す。
連れのない女はいくらでもいた。
だけど、肝心なのは見つからずじまい。
映画も観ないでウチに帰る。

日曜日、二人で堤防に出て魚を釣る。
釣り上げた魚の口に携帯を押し込むと呑み込んだ。
魚を海に放す。
魚はヨタヨタと海の底へ潜って消えた。

ミカの携帯で堤防から掛けてみる。
掛かった。
呼び出し音を聞き続ける。
「はい」
出た。

沖の海に男が一人、携帯を構えて立っている。

©  Annatto Shiquiso



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