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噂のキャッチングセンターを覗いてみた。
中に入るとバッティングセンターと少しも変わらない。
ただ、バットがない。
代わりにミットが置いてある。プロテクターとマスクもある。
どれもキャッチャー用だ。
「お付けしましょうか?」
短パン穿いた若いネエチャンがどこからか現れて、俺に声を掛ける。
従業員だ。
ああ、こういうネエチャンはバッティングセンターには多分いない。
「いや、いいよ」
俺はとりあえず様子を見る。
様子を見るというか、隣のヤツを見る。
さっきから、パシンパシンいい音させてるヤツだ。
完全装備で座り方もサマになってる。
ピッチャーマウンドの機械から出る球は結構速い。
それを、ひとつも逸らさずパシンパシン受けてる。
平日のこんな時間に仕事もせずに見事なキャッチングだ。
まあ、ヒトのことは言えない。
球が飛び出る機械にはテレビ画面みたいなのが付いている。
そこに実写のピッチャーの映像が映っている。
で、球は、投球するピッチャーの映像に合わせて飛び出してくる。
今映ってるピッチャーはテレビで見たことがある。
名前は知らない。
けど、確かすごい豪速球を騒がれてプロになったヤツだ。
確か、マツなんとかだ。
そのマツなんとかが、振りかぶってガンガン投げ込んでくる。
いや、実際は機械が球飛ばしてるだけなんだけどさ。
ああ、分かった。要するにそういうことなんだな。
つまりは、その豪速球のマツなんとかの球を受けてるという、その快感。
それがここのウリなんだ。
くだらねえ。いや、くだらなくもないのか?
俺はポケットからタバコを取り出して口に銜えた。
「お客様、館内は禁煙ですので」
さっきの短パンのネエチャンが飛んできて、そんなことを言う。
「銜えてるだけだよ。俺、口唇期にいろいろ問題があったから」
「……そうなんですか?」
「そうなんだよ」
短パンのネエチャンが行ったんで、俺は観察を続ける。
マツなんとかが球を投げる前に、画面に文字が出てることに気付いた。
カーブとかフォークとかそんなんだ。
なるほど変化球も放るのか。
けど、ずっと見てると、そのマツなんとかはどんな変化球でも投げる。
いくらなんでも一人のピッチャーがあんなにいろいろ放れないだろ。
そのへんの詰めが甘い。
「お客様!」
さっきの短パンのネエチャンが駆け寄ってくる。
気が付くと俺は自分でも知らない間に銜えた煙草に火を付けていた。
うるせえなあ。
俺はネエチャンを無視して外に出た。
どこもかしこも禁煙で嫌んなるぜ。
© Annatto Shiquiso
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