|
林を抜けて、少し歩いて、藪に行く手を塞がれる。
カラタチの藪。棘がある。棘だらけ。
突破を目論んだけど、服にも顔にも腕にも脚にも棘の一斉攻撃。
鉄条網よりタチが悪い。このしつこい感じ。
こいつ、痛!
実際、毒でも出てるんじゃねえのかってくらい痛い。
俺は、枝をつまんで、一つずつ、服から引き剥がす。
このカラタチの藪には、意志を感じるぜ。
生きてるモノだけが示すことができる拒絶という意志。
俺は、くじけそうになる。
実際、ほとんどくじけてた。
その時、いきなり藪の下から、ぬっと白い手が出た。
女の手。俺は男だから、すぐにそう思う。
でも、女の手のような男の手ということもあり得る。
なにしろ、見えてるのは、手だけだ。
手が手招きをする。
俺は手の出てる方に歩く。
手が静止を示す。
俺は立ち止まる。
手が指をパチンと鳴らして、指さす。
デカイ箱があった。ゴミかと思ったら違った。
開けてみると、ぴかぴか光る真鍮製のレトロ・スタイルな潜水服。
服って言うか、鎧だ。
手が、「着ろ」と、促す。
映画で観たぜ。一人で着られる代物じゃネエ。
手が指さす。
遠くから、ナニカ、ヒトっぽいモノが、ウオウオ言いながらこちらに向かっていた。
デカイ猿だ。あの感じは、きっとオラウータンだ。
あっという間に俺のいる所までやってきたのは、やっぱりオラウータンだった。
オラウータンは、万事了解済みと言う感じで、箱から潜水服を取り出す。
俺は、オラウータンの手を借りて、無事に潜水服を着た。
潜水服の丸いガラス窓越しに、手が「やったぜ!」と親指を上げるのが見えた。
オラウータンも、やっぱり親指をあげて、ウオっと言った。
俺も、潜水服の何だか分からん素材の手袋の手で、親指を上げてみせる。
それを、三人というか、三匹というか、まあ、全員で三回ぐらいやる。
親指突き上げて「やったぜ!」を。
手が、「もういいだろう」と指をパチンと鳴らした。
それから、「こっちだ」と人差し指をクイクイやって、自分は藪の中に引っ込んだ。
俺は、オラウータンにお礼かナニカを言いかけて、猿に分かるわけねえと思ってやめる。
真鍮の潜水服を着た俺は、棘だらけのカラタチの藪に突入する。
振り返ると、オラウータンはちょっと心配そうだった。
んで、俺は、安心させるつもりで、さっきの、親指で「やったぜ」をやってみせる。
オラウータンは、なんか、体を上下に揺すってそれに答える。
猿の相手はここまでにして、俺は棘の藪をバリバリ前進する。
© Annatto Shiquiso
|