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【出口】のドアを開けると、真ん前にデカイ男が背中を向けて立っていた。
行く手を塞ぐかたち。邪魔だ。
「そんなふうに言われても困るわけです」
背中を向けた男は言っている。俺にではなく、男の向こうの誰かにだ。
「モリコーネなんて知りませんよ」
何の話をしてるんだ?
「動物は嫌いなんです」
俺は好きだな、動物。人間より好きだ。
俺は、ドアノブを握ったまま、背中を向けた男が俺に気付くのを待つ。
すぐ気付くだろう?
人の気配。近くに誰かいれば、フツーはすぐに気付くよ。
「ああ、そうなんだ。それを早く言って下さいよ」
背中を向けた男はそんなこと言ってへらへら笑う。
笑ってないで早くどけよ。
「そうですねえ。まあ、協力しないでもないですけど」
何言ってんだ、こいつ?
俺はもう一度、ドアの磨りガラスの文字を確かめる。
【出口】の文字は裏から見ても、やっぱり【出口】だ。
やっぱり出口だ、出口。
で、出口の真ん中に突っ立てるこいつは、何なんだ?
非常識だろう?
ていうか、実際バカだろう、お前?
俺は、試しにひとつ咳払いをする。
「たばこ、やめた方がいいんじゃないですか?」
そう言う男の向こうから煙草のにおいがしてくる。
「肺ガンって、苦しいみたいですよ」
余計なお世話だ。
そんなことより、どけよ。
「ま、お好きにどうぞ。苦しむのはあなた自身なんですからね」
背中を向けた男が、両手を後ろに回して、尻の所で繋ぐ。
その手には靴が一足ぶら下がっていた。
その靴。
色といい、形といい、ヘタレ具合といい、俺のにそっくりだった。
ていうか、俺のだろう?
足下を見れば、背中を向けた男はちゃんと別の靴を履いている。
俺が裸足なのはこいつのせいか?
俺はバカかアホみたいに、背を向けた男が持っている靴に見入る。
見れば見るほど俺の靴だ。
「後ろですか?」
突然、背を向けた男が言う。
「私に、後ろを向けと?」
何がおかしいのか知らないが、笑いながら言っている。
「本当に?」
と念を押す。
「やめといた方が……」
まだ渋る。
「しょうがないなあ。分かりました」
ついに折れた。
「じゃ、3、2、1で、振り返りますから」
男のその言葉を聞いた途端、俺の体中から汗だか何だか分からないものが吹き出す。
頭もジンジンしてきたし、胃の中に重いなにかが充満してくる。
吐きそうだ……。
「では。3、2、1!」
俺は反射的にドアを閉めた。
ドアの磨りガラスにヤツが顔をへばりつける。
その顔!
俺は胃の中の重いモノを一気に床にぶちまける。
© Annatto Shiquiso
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