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名前しか知らない初めての場所でバスを降りた。
ずいぶん高いところで、下に僕らの町が小さく見えた。
町の向こうには海も見える。
僕らの町に海があったかは疑問だ。
それはともかく。
道の反対側は雑木林で、よく分からない木の匂いがした。
辺りに人気はなかった。車も通らない。家もないし、当然店もなかった。
「歩くの?」
「そうだよ」
「どのくらい?」
「ちょっとだけ」
僕はミカと歩道はおろか、車線すらない道路を歩き始めた。
しばらく歩くと、道の両側ともが雑木林になった。
そのせいで、まわりはなんとなく暗い。
僕は子供の頃の通学路を思い出して、少し楽しかった。
都会育ちのミカは、逆に気味悪がっていた。
と、そこで、人に会った。
男にも女にも見える。
茶色の包装紙をぐるぐるに巻き付けた細長い重そうな荷物を抱えていた。
僕らの来た方へと歩いていた。
僕は確認のため、その人に道を訊いてみた。
その人は、足を止めると、荷物を抱えたまま、そうですよ、と答えて頷いた。
「あってる」
「そうみたいね」
僕は、荷物を抱えたその人の妙な視線に気付いて、話を振る。
「初めてなんですよ、ここ」
荷物を抱えたその人は、そうですか、と言って微笑んだ。
だが、立ち去る気配はない。
無言で僕らを見ている。重そうな荷物も抱えたままだ。
なにかを待っているようにも見える。
ことによると、その荷物のことを僕に訊いてもらいたいのかもしれない。
だが、僕は、訊かない。
僕達は礼を言って、また歩き始めた。
ミカが急に両腕で抱くように僕の腕を取った。
確かに少し気味が悪い気もする。
ミカが腕を組んできたのはそう言うわけだろう。と思う。
だいぶ歩いて、振り返ってみると、その人は、まだ、もとの場所にいた。
で、こっちを見ている。
荷物はやっぱり抱えていた。
「荷物のこと、訊いて欲しかったのよ」
「うん」
実を言うと、あの荷物が何なのか、僕も少し気にはなっていた。
しかし、訊かない方がいいような気がした。
いや、訊いてはいけない、と思った。
そういう直感は大事にすべきだ。
そのうち道が曲がって、その人は見えなくなった。
それから間もなく道は雑木林を抜け、少しにぎやかな場所に出た。
コンビニと、コーラの自動販売機が見えた。
現代社会の象徴だ。
ミカは、ほっとした様子で、抱きしめていた僕の腕を放した。
僕達はそこで、さっき降りたのと全く同じ名前のバス停を見つけた。
「どういうことよ?」
とミカ。
僕に分かるはずがない。
© Annatto Shiquiso
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