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梯子の上に来ても、まわりの様子に変わりはない。
相変わらずの鉄パイプのジャングルだ。
ただ、バス停はホントにあって、ベンチに一人いた。
麦藁帽。膝を抱えて座っている。
煙草の煙が山火事みたいにすごい。
「君、バスに乗るつもりなの?」
麦藁帽の男が、案外若い声で訊く。
「カネ、持ってないんですよ」
「カネなんかいらないよ」
麦藁帽の男は、そう言って、煙をゆっくり吐き出した。
「君、煙草は吸うかい?」
「ええ、まあ……」
「じゃあ、吸いたまえ」
俺は、麦藁帽に並んでベンチに座る。
煙草を持っていないので、手を膝の上に置く。
「君、どうした?」
「煙草、切らしてて」
「敷島ならあるが?」
シキシマってのは、煙草の銘柄か?
そうらしい。
麦藁帽が袂から煙草を取り出し、差し出す。
言い忘れていたけど、麦藁帽は、くすんだ茶色の着物を着ている。
俺は、右手で失敬と挨拶して、一本抜き取る。
麦藁帽はマッチを取り出す。
マッチだ!
久しぶりに見たぜ、マッチ。
まあいいや。
親切な麦藁帽は煙草に火までつけてくれた。
二人揃って煙を吐き出し、ホッとなる。
「君、裸足なんだね」
「ええ、ま、色々ありまして」
麦藁帽は、ふーんと言って、また煙を吸い込む。
「実は僕もなんだ」
麦藁帽はそう言って、着物の裾から足を出して、指を動かす。
「君、実際、履き物がないというのは困るだろう?」
「まあ、そうですね」
「まず、裸足じゃレストランにも入れない」
「ああ、ね」
「君、ああいうところは、身なりにうるさいからね」
「最近はそうでもないでしょ?」
「いや。実際、君、僕なんか、この着物が駄目で追い返されたよ」
「着物、ダメなんですか?」
「駄目だったね」
そうか。
知らなかった。
いや。
モノによるんだろ?
「君、僕は、今、少し、不安なんだよ」
麦藁帽は勝手に喋る。
「もしかしたら、このバス停、バス、来ないんじゃないかってね」
俺は周りを見回した。
確かに。
この狭さじゃ、来たってせいぜい人力車だ。
「そうですね」
「だろう? 君もそう思うだろう?」
麦藁帽は、煙草を放り投げる。
「僕らはもしかしたら騙されてるんじゃないのか?」
誰に?
「標識だよ。このバス停の標識にまんまと騙されてるんだ」
俺は標識を振り返る。
「これは一つの研究だよ」
麦藁帽は、袂からまた煙草を取り出すと、じろじろと眺めてから口にくわえた。
火はつけない。
「君、つまりこういうことさ」
麦藁帽はそう言うと、火のついていない煙草を吸って、口から白い煙を出した。
© Annatto Shiquiso
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