川のことで


川がある。そんなに広くない。
両岸に立ってキャッチボールが出来るくらい。
川底はコンクリートで出来ている。
だから川と言うより、本当は排水溝だ。
でも水はきれいで、水量もたっぷりなので、いい感じだ。
ちゃんと流れている。
その、川縁の道を歩いていく。
「その水飲んじゃ駄目よ」
「川の?」
ミカが僕の提げたコンビニの袋を指す。
「なんで?」
「飲むために買ったんじゃないの」
「そうなの?」
「そう」
僕らは川上に向かって歩いていく。
ふと見ると川上から何か流れてきた。
プカプカと浮かんでいる。
「鴨だ」
「真鴨ね」
「真鴨だ」
緑色の頭をしている。
流れに逆らうように、水中で水掻きをバタバタしているのが見える。
が、全然駄目。
くるくる回って、あっという間に流されていった。
ちょっと面白い。
そう言おうと思ったら、もう、次の鴨が流されてきた。
今度は頭の茶色い雌だ。
彼女もさっきのと同じように水掻きをバタバタやっていたが、無駄な抵抗だった。
クワッと一声残して、流されていった。
「何なの?」
「鴨だよ。川に流されてる」
「そうじゃなくて、ほら」
ミカが川上を指さす。
なるほど。
見ると、川上から次々と鴨が流されてきている。
オモチャのようにも見えるが、多分本物だ。
グワグワ鳴く声も聞こえる。
大抵は一羽ずつ順番に流されてくるが、時々は二、三羽がまとまって来る。
どっちにしろ皆、抵抗空しく、水面をくるくる回って流されてしまう。
僕らは立ち止まって、しばらく鴨の川流れを眺める。
三十羽ほど流れてから、ミカが言う。
「なんでかしら?」
「流れが急なんだよ」
ミカが黙って僕の顔を見る。
何か言いたげだが、何も言わない。
そうしてる間にも二羽流されていった。
「なんで飛ばないのかしら?」
「ああ、確かに」
また、一羽流されていった。今のは雄だ。頭が緑。
「アヒルじゃあるまいし」
「え、アヒルって飛べないの?」
「そうよ。知らなかった?」
知らなかった。
だからいつも歩いてるのか。
ミカが辺りを見回し、何か見つけた。
「わかった。あれよ!」
「何?」
ミカの視線の先に目をやる。
その、アヒルがいた。
白いスーツに黄色いブーツのあの鳥だ。
反対側の岸の上からじっと鴨の川流れを観察している。
と、言うか監視している。
時々、不機嫌そうにガアガア言う。
「やっぱりね」
「何が?」
「あいつのせいよ」
アヒルが僕らに気付いて顔を上げる。
アヒルと目が合った。
鳥類との気まずい沈黙…。

そうしている間にも鴨達は流されていく。

©  Annatto Shiquiso



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