話ながらも仕事の手は休めない。


気がつくと、鉄板の上で寝ていた。
まわりはウネウネと絡み合った金属のパイプだらけだ。
デカイ船の機関室のようだ。

違うかもしれない。

立ち上がって、体の埃を払う。
頭がズキズキする。
額の髪の生え際を触ったら血が付いた。
俺の血だろう。

ありがち。

俺は、その、船の機関室らしきところを歩き回る。
通路の薄い鉄板がカンカンと鳴る。

人間がいた。
灰色の帽子を目深にかぶっている。
服も同じ灰色のツナギだ。
そいつはパイプから突き出たメーターを読んでいた。
数字を調べ、手に持ったボードに書き込んでいる。
バルブを回して、蒸気を抜いたりもしている。
冷気かもしれない。
いや、冷気は抜く必要はないだろう。

俺はそいつに挨拶する。
そいつはメーターの数字を書き込みながら、頷く。
帽子のせいで顔はほとんど見えない。
「血が出てますね」
俺はもう一度、額の血を触る。まだ少し濡れていた。
「大したことないよ」
帽子のそいつは、別のメーターを調べている。
「僕のおじさんもそんなこと言ってて死んじゃいましたよ」
話ながらも仕事の手は休めない。
「それに、裸足じゃないですか」
そいつはヤレヤレというふうに頭を振った。
ペンを胸のポケットに差し、ボードを脇に挟む。
それから、自分の靴を脱ぎ、手に持って差し出した。
「これ履いて下さい」
凄まじい臭気が俺の鼻を襲った。
いや、ホントにスゴかった。
「いや、いい」
俺は思わず、後ずさる。
「遠慮しないで」
遠慮じゃねーよ!
「そうですか……」
そいつは靴を履きなおした。
俺は裸足のままだ。

これでいい。

そいつは、仕事を再開した。
「あなた、なんで、こんなところにいるですか?」
親切を仇で返されて少し不機嫌らしい。
でも、帽子のせいで顔は見えない。
俺だってこんな蒸し暑いところにいたくはない。
「もう少し行くと梯子があります。それ、登ってください」
「出られるの?」
そいつはメーターを調べながら首を振る。
「上にバス停があります」
「カネ、持ってないんだけど?」
そいつは相変わらず仕事の手を止めない。
小さなハンマーで、パイプをコンコン叩いている。
「大丈夫ですよ」
「大丈夫って、どういう意味?」
パイプを叩く手が一瞬止まり、フフっと笑う。
「心配いりませんよ」
「心配って何?」
「いや、だから大丈夫ですって……」

俺はそこをあとにした。

梯子はあった。
だが、その少し先に【出口】と書かれたドアもある。
どうなんだろう?
て言うか、どういうつもり?

あー、たばこ吸いてーなあ。


©  Annatto Shiquiso



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