「吐き出したモノは飲めばいい」


壁に【備品庫が交番】の落書き。

本当だった。

「出口に男がいて?」
俺は頷く。
「そいつが邪魔をすると?」
俺はもう一度頷く。
「で、そいつがアンタの靴を持ってる?」
俺は、裸足の足を上げて見せる。
お巡りは、鉛筆を机の上に放り出す。
「アンタね……」
お巡りは、煙草を取り出して、百円ライターで火をつける。
「ここのルール、わかってないね、全然」
俺は、お巡りの放り出した鉛筆を取り、素早く机の紙に書く。
【ルールって?】
お巡りはそれには答えず、机の上の電話の受話器を取る。
プッシュボタンを三つほど押して、どこかにかける。
「アンタの声は、この電話越しに聞こえるから」
お巡りはフツーの顔してそう言う。
(そんな馬鹿なことがあるかよ!)
「そんな馬鹿なことがあるんだよ」
お巡りは何も面白くもないという顔で受話器を耳に当ててる。
本当に聞こえてるらしい。
仕組みは分からないけど、筆談の手間が省けていいな。
「アンタが【声】をなくしてしまったのは、ルール違反のペナルティなんだよ」
(ルールも教えてもらってないのにペナルティとか言うのか?)
「そこだ」
お巡りはそう言うと、机の引き出しから風呂敷包みを取り出した。
「この中に、アンタのなくした【声】が入ってる」
(なに?)
「落とし物として届けられた」
(そうじゃなくて、なんで声なんかが落ちてたり拾われたりするんだ?)
「さっき吐き出したんだろう?」
お巡りはそう言うと、風呂敷包みを俺の方に押す。
俺は風呂敷包みをちょっと持ち上げてみる。けっこう重い。
「本当は、こういうのはナシなんだが、まあ、アンタもわざとやったわけじゃないし……」
俺は包みを開けてみる。
変なモノと小冊子が出てきた。
「ああ、その本はルールブックだから。読んでおくことだね」
俺は、鉛色にテラテラ光る変なモノをつまみ上げた。
「それがアンタの【声】さ。さっき吐き出した」
(これをどうしろと?)
お巡りは、呆れたね、というふうに肩をすくめた。
「吐き出したモノは飲めばいい」
(なんか不味そうなんだけど?)
「自分の【声】だ。不味いか美味いかはアンタ自身の責任さ」
お巡りはそう言うと、紙切れを一枚、机に置いた。
「受領書みたいなもんだよ。ここにサインして」
俺は言われたところに鉛筆でサインする。
(て、鉛筆で大丈夫なのか?)
「形式、形式……」
お巡りは平気だ。鉛筆でサインされた書類をバインダーに挟む。
「あ、それから、靴の方は自分でどうにかするしかないから」


©  Annatto Shiquiso



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