SARABANDE

君は、物音を立てないように、ゆっくりと窓を開ける。
先に入り、彼女に手を貸す。
彼女の手を引いて暗い廊下を抜け、灯りの漏れる部屋の前に来る。
腕時計を見る。時間どおり。
ここまではよし。
君は彼女を少し後ろに下がらせ、ノックせずにドアを開ける。
とっさに彼女の口を手で塞ぐ。
死体。
頭の中身がすっかりこぼれて床に溜まっている。
君は考える。
先回りをした奴がいる。
君は彼女の肩を抱えてそっと廊下に後ずさる。
「やあ、こんばんわ!」
不意を突かれ、君たちは二人揃って声を上げる。
「ああ、驚かせてしまって申し訳ない」
低い声が今通ってきた廊下の奥から聞こえる。
君は彼女の肩を強く抱き寄せ、声のする闇を睨む。
暗い。
「しかしこんな時間に何を?」
闇から現れる声の主。
穏やかな顔つき。四角い肩。太い腕。そして車椅子。
君たちはこの男を知っている。
「その部屋になにか?」
男は車椅子を進めて部屋を覗き込む。
「ああ、そうだった」
男は呟き、そして少し笑う。
「いや、実におぞましい……」
男はしかめっ面を君たちに向ける。
「知り合い、らしいね?」
だが、君達は揃って首を振る。
「おかしいな?」
男は部屋の死体を顎で指す。
「そいつ、これを持っててね」
男はポケットから携帯電話を取りだす。
「こうやって発信記録の番号に掛けると……」
突然鳴り出す君の携帯電話。
「ほら」
慌ててその場を離れようとする君と彼女。
だが、男が凄い力で君の腕を掴む。
「いや。戻れないよ」
とっさに車椅子を蹴飛ばす君。
男はバランスを崩しそうになるが、掴んだ手は離さない。
「車椅子を蹴るなんて……」
携帯電話をポケットに戻す男。ゆっくりと車椅子から立ち上がる。
「一生懸命リハビリしたからねえ」
呆然と男を見上げる君の喉に、突然男の右手が食い込む。
体が持ち上がり、頭の中を太い電気が流れる。
舌が口いっぱいに膨らむ。
君は苦しい。
動転した彼女は君を置いて逃げようとする。
無駄だ。
髪の毛を掴まれ、床に引き倒される。
彼女は顔面を思い切り踏みつけられる。
頭蓋骨陥没。
彼女は死んだ。即死だ。
そして君。
喉が潰れ、痙攣が止まる。
あっけない。
君も死んだ。
君が最後に聞いたのは天の雷ではない。
それは、踏み砕かれる彼女の骨の音だ。

私は、君たちの名をリストに書き加え、レコードに針を落とす。
短い旋律を繰り返す作者不詳のレクイエムだ。
今、喜びと共に天国の門をくぐる君たちの姿が見えたよ。
すばらしい。
私は車椅子に身を委ね、涙を流す。

©  Annatto Shiquiso



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