管理人室で地図をもらう

プールの中には管理人室がある。
プールの壁面の中だ。
プールに水が張ってあると出入り出来ない。
僕は水を抜いたプールに降り、丸いガラス窓を覗き込む。
管理人室は空だった。
物はそろってる。人影がないと言う意味だ。
管理人室のドアは、潜水艦のドアと似ている。
車のハンドルみたいな、丸いグルグルが付いてる。
僕は勝手にグルグルを回して扉を開け、中に入る。
管理人とは顔見知りだから、それくらいしても平気だ。
管理人と顔見知りか。確かにそうだが、しかしどうだろう?
人間以外の存在に顔見知りという言葉はアリなのか?
ここの管理人はロボットだ。
かなり人間らしく振る舞ってはいるから、ちょっとくらいじゃ気付かない。
けど、管理人はロボットだ。けど、本人に確かめたことはない。
僕は勝手に上がり込み、座布団を引っぱり出す。
胡座をかいて煙草を吹かしていると、管理人がトイレから出てきた。
人間らしく振る舞うコツを心得ている。
けど、ロボットがトイレの中で何をしてるんだろう?
ロボットはプログラムされた関西弁で口を利く。
「やあ、あんた、来てたんか」
「お邪魔してます」
「また集金か?」
「はあ、まあ……」
「で、今日はどこの誰?」
「9棟のアナトーさんです」
「ああ、あの人な」
ロボットの管理人は、見た目は60くらいのジイサンに見える。
知り合いから「エリちゃん」と呼ばれているのを聞いたことがある。
苗字の方の「エリ」だ。女の子の名前の方の「エリ」じゃない。
そのエリちゃんが湯飲みを二つ取り出して、「飲むやろ?」と訊く。僕は頷く。
エリちゃんの淹れるお茶は熱い。湯は、急須の口からボコボコ泡だって出てくる。
差し出された湯飲みを覗き込むと、まだブクブク言ってる。
とても手を出せない。湯気が当たっただけでデコが焼けそうだ。
エリちゃんはそんなものをフーともせずグイグイ飲む。
風呂上がりの牛乳みたいに飲む。
それを初めて見たときに気付いた。
こいつ、ロボットだ。
他は全部、人間以上に人間くさいのにお茶飲みだけが人間じゃなかった。
どんな設計にも何らかの手落ちはあるもんさ。
「地図か?」
エリちゃんが訊く。
「お願いします」
「ほか。ほなら、自分が茶飲んでる間にパーっと描くわ」
エリちゃんはそう言うと作業を始めた。
いつもの三色ボールペンをカチカチやって、チラシの裏に地図を描いていく。
「9棟辺りは人間やないもんが仰山ウロウロしてるから、気ぃつけや」

人間のふりをしたロボットが言うな。

©  Annatto Shiquiso



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