プールサイドで電話を借りる

空からはいろいろ降ってくるから、外では晴れてても傘をさしてる。
柄の太い黒のコウモリで、もう五回は修理した。
貰い物だけど気に入ってるからいつまでも使ってる。
今もまた雨とか雪とか雹とかではないナニカが空から降ってきた。
それで僕のコウモリは今パタパタ鳴っている。

紫外線降り注ぐ屋上プールは無人。
僕はプールサイドに立って、ガムを噛みながら傘をさしている。

空から降ってくるそれはキラキラしていて、音も立てずにプールの水に消えていく。
それは蛙や鳥ではない。金でもない。
コンタクトレンズ。
コンタクトレンズが雨のように降っている。
僕はしゃがんで人差し指を舐める。
コンタクトレンズを指につけて拾う。
柔らかい。ソフトコンタクトレンズだ。

水が跳ねた。
水泳選手がプールの水から出てきて、目の前の縁につかまって僕に言う。
「悪い。遅くなった」
「いや、大丈夫だよ」
水泳選手は競泳用のオレンジ色したゴーグルをしたまま空を見上げる。
「今日のこれはなんだ?」
僕はソフトコンタクトレンズだと教えてやる。
「へえ」
水泳選手はそう言って、プールサイドに溜まったコンタクトレンズをまとめて掴む。
手の中のそれをしばらく眺め、コメントなしで投げ捨てた。
「今日はメッセージも預かってきた」
水泳選手はどこからか赤い携帯電話を取り出す。
ずぶ濡れの携帯電話だ。
「完全防水タイプの最新式」
水泳選手はそう言って、自分で折り畳み式のそれを広げ、どこか押す。
「聞けよ」
水泳選手はずぶ濡れの携帯電話を僕に差し出す。
僕はずぶ濡れを耳に当てメッセージを受け取る。
そして空を見上げた。
けど、コンタクトレンズが当たって目を開けてられない。
水泳選手も空を見上げる。
「コンタクトレンズがジャマで見えないな」
僕は携帯電話を水泳選手に返す。
水泳選手は携帯電話を折り畳んでどこかにしまい込む。
「いつも通りプールの栓は開けておいたから」
「いつも助かるよ」
「いや。じゃあ、俺は帰るから」
水泳選手はそう言うと、大きく息を吸い込んで、ズボッと水中に消えた。
入れ替わりに水中から黒い何もない顔が一度に百人現れる。
百人はただ黒い影だ。
百人の黒い影は次々にプールから上がり、屋上全体を這い回る。
みんな、自分のコンタクトレンズを捜している。
そうしてる間もコンタクトレンズは次々空から降ってくる。
僕は噛んでたガムをプールに投げ捨てた。
百人の黒い影が一斉に顔を上げ僕を見る。
僕はデカイ音で鼻を啜り影を消す。

©  Annatto Shiquiso



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