秘密工場の白いツルツル

余った中華を食べる。
外側のふかふかはもう冷めている。
底の紙を剥がすとヌルヌルしてる。
中の具はまだ温かい。
温かい具を、冷めたふかふかで包むようにして食べる。
強いモノが弱いモノと口の中で混ざる。
この混ざる感じが美味さの秘密だ。
ただ、このネトネト感はイヤだ。
歯に貼り付いた生地を舌で取る。
舌で取れないヤツは、ひとさし指を突っ込んで取る。
取れたカスは食う。

〈箱〉と書かれた部屋のドアを開けた。
中は段ボール箱の山。
山というより壁だ。無地の段ボール箱の壁。
部屋いっぱいに隙間なく積み上げられている。
行き止まりのようだけど本当は違う。
一番下の右端の段ボール箱の向こうが空いてる。
人が一人通れるくらいの「通路」だ。
蓋になっている段ボール箱を抜き取り、四つん這いになって「通路」を通り抜ける。
右、左、左で、ガランと広い体育館のような工場に出る。
人の姿はない。
象のような大型の機械が一台、独りで動いている。
尻からぽろぽろと何か出ていて、例の段ボール箱の中に溜まっている。
タバコの箱のように見える小さな四角いものだ。色は白い。
僕は、向かいの荷物運搬用のエレベータまで歩く。
「機械稼働中の立ち入りは大変危険です。速やかに退出して下さい」
天井からやさしい声で女が言う。
けど、本当は女じゃない。機械だ。機械の声。
センサーと合成音声のやってることだ。
最初は慌てたけど、もう慣れた。
僕はエレベータの扉を開けて乗り込む。
と、足下に何か落ちているのに気付いた。
拾ってみる。
それは、例の象のような機械から出てきているアレらしかった。
初めて近くで見たけど多分そうだ。
ツルツルの固い塊。字も柄も何もない真っ白け。
「ダメですよ」
男の声がして、振り返ったら人がいた。
工場長。胸にそう書いてある。
「持って行っちゃダメです」
僕は工場長に白いツルツルを返す。
「中華、食べたでしょ?」
工場長が白いツルツルを受け取りながら言う。
「匂いがしてるから」
工場長が板ガムを差し出す。
「匂いは機械誤作動原因の第三位ですからね」
そう言われれば仕方がない。
僕はガムを受け取る。
ガムはすっかり乾燥していて、口の中でパキパキ折れた。
「騙されましたね」
工場長がフフッと笑う。
「それはガム板。ガムに似せた板です。原料はこれ」
と言って、例の白いツルツルを見せる。
僕はガム板を噛み続ける。
最初は乾燥してたけど、今はスニッカーズの中身みたいにネトネトだ。
味は、普通のガムと変わらない。

©  Annatto Shiquiso



HOME