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ここ一ヶ月の間に四人のエージェントがあの場所で姿を消した。五人目は辛うじて帰ってきたが、今は施設の中で、一日中家具の配置について考えている。
「つまり、こういうことなんです、社長」
不思議な白いツナギを着たその五人目のエージェントは私に言った。
「この世界のあらゆる現象には、場の力が作用してるんです。場です、場。場所の場」
「うん」
私は、彼が丸一日掛けて決めた位置に据えられたという椅子に腰を下ろした。その椅子は、位置はもちろん、方角にまで細心の注意が払われ設置されていることが、床に無数に書き込まれた直線と数字から分かる。
「完璧な配置が完璧な空間を生み、それがすなわち完璧な存在の基礎となるのです。つまり、場の力です」
今や〈場〉の権威となったその元エージェントは、急に私に顔を近づけると、内緒話でもするように声を顰め「あそこでうまくやるには、この、場の力を完璧にモノにしなくてはなりません」と言ってニヤリと笑った。ろくに風呂にも入っていないのだろう。かなり臭う。私は、相手に気付かれないように、そっと上体を反らした。
「君はうまくやれたわけだね」
元エージェントはしばらく瞬きもせずに私を見ていたが、不意に投げやりな態度になって椅子の背にもたれた。
「私なんか、全然駄目でしたよ。今は違いますよ。でも、あの時は全然……」
「しかし、君は前の四人とは違って、ちゃんと帰ってきた」
「そこです。私にはもともと才能があったんですね。素養と言いましょうか。だから、どうにか帰ってくることが出来た。他の四人にはそれがなかった。それだけです」
「なるほど」
それから一時間、彼は〈場の力〉について講義し、最後に神妙な顔でこう付け足した。
「それと、人工衛星に気をつけて下さい。あれは場の力に大きな影響力を持っています」
「人工衛星?」
彼は、顔を私に向けたまま、黙って上を指さした。
私は天井を見上げた。
古くなった蛍光灯が見えるだけだ。
私が元エージェントに視線を戻すと、彼は満足げに頷いた。
「今は大丈夫です」
その時、面会時間の終了を伝えるチャイムが鳴った。元エージェントは、にっこり微笑むと、残念ですと言って立ち上がり、私に握手を求めた。
「時間が来ました。続きはまた次回、お話ししますよ」
彼は、確かな足取りでドアに向かい、迎えに来た看護師に連れられ〈自室〉へ帰っていった。
私は、携帯電話を取り出し、メールを打った。
〈人工衛星に気をつけろ〉
© Annatto Shiquiso
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