鍵を開けるドア

スーツと書類鞄。
ガラス張りのエレベータで19階まで上る。
連れがいる。
天井で禿頭をこすりそうな大男だ。
知り合いじゃない。たまたま乗り合わせた。
禿の大男は、葬式帰りのような黒ずくめで黒眼鏡までしている。
両手には盆栽の鉢を一つずつぶら下げている。
松と、もう一つは、なんか、知らない木だ。
エレベータは17階で止まった。
禿が降りた。

人の頭がいくつも見える下界の交差点。
猛スピードで突っ込んできた黒塗りの車一台。
カーブを曲がりきれずに、信号機に激突し、横向きに3回転した。
あれに乗ってて助かれば奇跡だ。
エレベータが動き出す。

19階のエレベータ前には、いつも中華の屋台が出ている。
僕は4つ注文した。
2つで充分ですよ。
屋台のオヤジ。
僕は4つ買って龍の柄の袋を提げる。

屋台から出る湯気のせいで、19階の廊下はいつも湿っている。
中華の入った袋を提げて、滑らないように用心しながら歩く。
突き当たりまで歩いたら、コンクリートの壁をずらす。
もたせ掛けてあるだけの壁だ。
奥に階段がある。それを2階分上る。
上がるとケータイが鳴る。
出て、4つの数字を聞く。
9807とか、2738とか。
今回は、1916だった。
それを覚えておく。メモは厳禁だ。
更に階段を上ると、すぐ上の踊り場に、男が一人立っている。
やせて、オドオドした男だ。僕はこの男を鍵男と呼んでいる。
カギオトコじゃなくて、カギオだ。
鍵男はいつも両手の指を複雑に絡み合わせている。
「指が、離れなななな」
鍵男はそう言って、なんとかしてくれ、と僕に訴えかける。
この鍵男に、さっき覚えた4つの数字を告げる。
数字が正しければ、鍵男はナンカ叫んで、絡み合わせていた両手の指をほどく。
すると、上の階にある「ドア」が開く。
この「ドア」が唯一の「出入り口」だ。他にはない。
鍵男が両手を離したら、買ってきた中華をすばやく両方の手に一つずつ手渡す。
中華を買うのはこのためだ。
鍵男は、両方の手の中華を食べ終わるまで、手を組み合わせることはない。
その間に上の階に上って、開いている「ドア」から「中」に入る。
「ドア」を通りぬける前に、鍵男が中華を食べ終えしまうことがたまにある。
その時は、残っている2つでやり直す。

僕は鍵男を残して階段を上る。
「ドア」は開いていた。
「中」に入る。
入るとそこはやっぱり踊り場で、鍵男が突っ立って、さっきの中華をまだ食べていた。
順調だ。
僕は鍵男を残して階段を下りる。
順調だ。順調。

©  Annatto Shiquiso



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