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「マネーの虎」が、それがテレビ番組であるという時点で、そこから始まるビジネスは、すでに一つの特殊例でしかないことを、関係者も応募者も、そして視聴者も初めから充分に分かっている。出店前に、テレビの全国放送で、しかもいわゆるゴールデンタイムに大々的に宣伝をする形になるわけだから、それは、やはり特殊な事例でしかない。逆に言えば、応募者も、出資する「虎」(社長)の側も、そこ(つまり事前に全国的な宣伝をテレビが勝手にやってしまう形になること)に一つのうまみを見出しているわけで、そこにはどうしてもちょっとしたヤラセ的要素が含まれる。むろん、テレビの宣伝効果は最初期の一時期に過ぎないし、その後ビジネスを軌道に乗せ、順調に継続させていけるかどうかは、マネーを勝ち取った応募者の力量にかかっているわけだが、少なくとも、出足で躓くと言うことは限りなくゼロに近いはずだ。(応募者自身が急にやる気をなくさない限りは)
その、あくまでも特殊な事例でしかないビジネスの成り行きに、視聴者がこれほど惹きつけられる理由は何だろう? (ただ、成り行きと言っても、視聴者が実際にテレビで見るのは、殆どが、立ち上げ直後の、「結果」が概ね保証された場面だけだが)
我々は「テレビでこれだけ流れてるんだから、最初くらいはうまく行くに決まってるさ」と分かっていながら、応募者が新しく始めた商売がうまく行くのを見ると、やはり「ああ、よかったな」と思って、いい気分になる。この感じ方の根は、実は、ドキュメンタリーに於ける成功談を一緒になって喜ぶ時のものとは少し違うような気がする。どちらかと言えば、本質は、フィクション(ドラマなど)を楽しむときのそれに近い。
この番組が企画として優れているのは、出資金獲得の場面(プレゼン)から応募者を映し出すことで、視聴者に、応募者に対する親近感をもたせることにある。つまり、実体はただの傍観者でしかない視聴者に、身内意識を植え付けるのだ。もっと言えば、その新しく立ち上がる新ビジネスの関係者的な立場を疑似体験させるのだ。そうすることで、視聴者にとって、その新ビジネスの成功が、あたかも自分自身の成功のように感じられる。これは、今はメジャーになったバンドやアイドルを、出始めでまだそれほど人気もないころから目をつけていたことを自慢する心理と同じものだ。しかも、番組は、その新しく立ち上がったばかりのビジネスに、視聴者が「初めての」顧客として参加する楽しみをも提供している。
『マネーの虎』の視聴者が求めているのは、ひとりの人間が0から始めたビジネスが、やがて見事な花を咲かせるという「サクセス・ストーリー」であり、身も蓋もなくなりかねないガチガチのドキュメンタリーではない。だから、そこに幾分かのヤラセ的要素が含まれていたとしても、それが「サクセス・ストーリー」としてのリアリティを失わない程度であれば、視聴者としては問題ないのだ。つまり、視聴者にとって、よくできた〈リアル〉な「サクセス・ストーリー」を楽しむことが出来れば、多少の〈ウソ〉は構わないということだ。
『マネーの虎』に於ける新ビジネスは、それが事前にテレビ放映されているという特殊なものであり、それは一種のフィクションである。視聴者は、それを分かった上で、言ってみれば、フィクションとノンフィクションの中間的なモノとして、そこに展開される「サクセス・ストーリー」を楽しむのだ。
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「マネーの虎」は、既に成功を収めた(あるいは失敗した)ビジネスのドキュメンタリーではない。この番組の売りは、現在進行中の新たなビジネスを、視聴者とほぼ同じ時系列で伝えることにある。そしてまた、そうでなければ、この番組は成立し得ない。この番組は、起業を思い立った人物が、出資者を募るためにプレゼンを行い、実際にビジネスを始め、当初立てた初期目標を達成するまでを、多少演出を交えながら伝えているに過ぎない。やっていることはそれだけだ。プレゼンの場所も、セットさえ必要としないような、どこかの会議室かなにかだし、応募者に提供される出資金は、番組に参加している「虎」と呼ばれる社長たちから直に出される。もちろん、応募者は素人だ。要するに、テレビ局としては、普通にタレントを使って、バラエティ番組なり、クイズ番組なりを制作するよりずっと安く上がる。「マネーの虎」は、今はともかく、もとはきっと低予算番組だ。見れば分かる。この低予算番組が、なぜ、これほど充実した内容の番組として成立できているのかと言えば、こうした情況に於いて、テレビが初めから持っている宣伝効果が非常に有効に働き、ただテレビであると言うだけで、出演者全員に何らかの利益(アドバンテージ)をもたらすことが出来るからだ。つまり、テレビの持つ広告能力が、勝手に人と金を引き寄せるから、テレビ局自体が人や金を無理してまで用意する必要がないのだ。要するに、この番組は、テレビがテレビであることの利点を最大限に生かした企画というわけだ。そして、番組が、そのテレビがテレビであるという利点、すなわち絶大な宣伝効果を有効に使うためには、どうしても、それは、新たに立ち上がろうとしているビジネスと同時進行的でなくてはならない。
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しかし、私にとって本当に面白いのは、この『マネーの虎』という番組が、おそらくもとは低予算番組だったということだ。つまり、多額の資金を勝ち取って新商売を始めるという内容のテレビ番組自体が、そんな資金などなくとも人々の人気を勝ち得るモノは生み出せる、ということの実例になっているのだ。この事実はなかなかに興味深いとは思わないだろうか?
【2003.06.24】
© Annatto Shiquiso
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