PS2ゲーム「SIREN」について
このゲームは最後までプレイし、アーカイブも全て埋めた。
ゲームとしては、さほど難しい部類には入らない。制作者の「意図」が理解できれば、むしろ簡単なくらいだ。ただ、簡単だと言い切るには一つ条件がある。もしプレイヤーが極度の方向音痴なら、ナビゲーターが必要だ。自分が極度の方向音痴だと分かっていて、なおかつナビゲーターを用意できないなら、手を出さない方がいいかもしれない。

このゲームのキモはプレイヤーに備わった「視界ジャック」と呼ばれる能力だ。「視界ジャック」とは、プレイヤーがこれから動き回るエリアにいる敵(屍人)が今見ている光景を「盗み見る」という能力で、これによって、プレイヤーはその場にいながら、離れた場所の様子を「見る」ことができる。この「視界ジャック」によって得られる情報は主に次の二つで、ゲームをすすめる上でとても重要だ。まず、敵の動静(種類の特定と、配置および巡回パターン)。そして、プレイヤーが取得すべきアイテムなどの有無とその位置の特定だ。唯一プレイヤーに与えれらたこの超常的な能力の存在は、プレイヤーが、敵が見ている風景を手がかりに、敵がマップ上のどの位置にいて、どこをどう動き回っているかを、前もって知ることが出来る、その意味をプレイヤーがよく考えることを要求している。つまり、このゲームに於いて、プレイヤーは闇雲に動き出すのではなく、これから起こりうることの見通しを充分に立てた上で、行動を起こさねばならないということだ。(シナリオによっては、そうも言っていられない場合もあるが、それは「見かけ上」の違いで本質は変わらない。)この点をよく踏まえてプレイすれば、決して理不尽な難しさはない。あとは、このゲームの持つ、ややB級な、おどろおどろしい世界観を楽しむだけだ。



ゲームにおいて、プレイヤーに恐怖心を与えるのにもっとも効果的なのは一人称的視点構成だが、そうすると、ゲームシステムの「幅」が極端に制限され、結局は、お化け屋敷的なゲームシステムにならざるを得ない。お化け屋敷的ゲームシステムとは、つまり、アクシデントに対処するゲームシステムということだ。ホラーゲームで言えば、路上でいきなりバケモノなどに襲われ、それに上手く対処することでゲームが進むといったタイプだ。このお化け屋敷的ゲームシステムから抜け出すには、どうにかして、プレイヤーに三人称的視点を与えなければならない。しかし、そうすると、こんどは、途端に恐怖感が減ってしまう。三人称的視点は、プレイヤーに対し時間的や空間的な「先取り」を許してしまうために、プレイヤーが「当事者」ではない「神の視線」を持ってしまうからだ。プレイヤーに「先取り」を許し、なおかつ恐怖感を維持できるゲームシステム。『SIREN』はそれに挑戦している。

人間が抱く恐怖の根源にあるのは「自分が見てない(気付いてない)場所に何か恐ろしいモノがいるんじゃないか?」という動物全般に見られる本能だ。三人称的視点は、この恐怖を「解消」してしまう。少なくとも、弱めてしまう。ただ、恐怖にはもう一つあって、それは、恐ろしい相手が近くにいることを自分の方が先に気付いてしまったときの、「現にそこにいるあの恐ろしい存在に見つかるかもしれない」という恐怖だ。このゲームでは、「視界ジャック」システムによって、一人称的視点を維持しながら、同時に三人称的視点をゲームの中に持ち込むことに成功している。これはつまり、お化け屋敷的(アクシデント対処型)ゲームシステムの枠を抜け出したということだ。従来のホラーゲームのゲーム的モチーフが、アクシデントに遭遇すること(そしてそれに上手く対処すること)なのに対し、『SIREN』はそのアクシデントを出来るだけ回避すること(つまりアクシデントに遭遇しないこと)がゲーム的モチーフになっている。だから、プレイヤーがゲーム中に感じつづける主な恐怖は、アクシデント(屍人に襲われるなど)に遭遇してしまった時のそれではなく、アクシデントに遭遇してしまうかもしれない恐怖ということになる。だからそれは、「恐怖」と言うよりはむしろ「不安」で、その「不安」は、我々が日常生活している中でも比較的よく体験する心の状態であるために、例えば、バケモノに襲われると言った爆発的な恐怖に比べた場合、我々プレイヤーの心のうちに、より「地続き」的に再現されやすい。現実には何も起きてはいないが、起きる可能性がある(と本人は信じている)情況に置かれたときの不安な感じを、このゲームは独創的なゲームシステムによって巧みに表現している。さらに、丁寧に作り込まれた映像や音響によって、制作者が意図した世界観もよく表現されていて、全体としてとても好感が持てた。いつの時代の誰の作かも分からない無名のホラー映画ビデオを間違って観てしまったあとのような、あの後味の悪い嫌な感じがとても気に入っている。

追伸:ゲームの本筋とは関係ないが、「多聞の微笑み」が衝撃的だった。

2004.6.17

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