暗闇の中で見えない炎に近づく
ある生命が暗闇で見えない炎に近づく情況を考えてみる。
彼には炎に関する知識は皆無だ。

炎に近づくにつれ、熱で肉体に苦痛を感じるだろう。彼は前進(炎に近づくこと)を止め、あるいは後退する。

このとき、彼は、炎という〈非私〉の存在を認識しているのか?それとも、彼に起こった苦痛の原因を、彼自身の〈前進〉と言う行為に求めるだろうか?


非常に初期の生命体の〈意識〉を考えた場合は、おそらく後者になるだろう。〈前進〉という行為が肉体に苦痛を生じさせたと、〈意識〉は認識し、その行為を中断する。実は、自分自身とは全く別のもの、つまり〈非私〉が存在し、それが苦痛の原因となっているとは認識しないはずだ。

逆の場合でも同じだ。原初の生命体が、動き回っていて偶然に食物になる〈非私〉に接触し、それを体内に取り込んだとしよう。その場合、彼の内部に発生する食物を得た事による〈快さ〉は、そうとは認識されずに、彼自身の行為がもたらした結果だとされるはずだ。

つまり、どちらの場合も、原初の生命の意識にとって、〈世界〉には彼ただ独りきりしか存在していない。逆に言えば、彼の内面世界が、際限なく拡がって、外部の世界を取り込んでしまった状態、これが、もっとも初期の意識のあり方だろう。この状態の意識は、自身の内面で起こる現象も、(第三者から見て)彼の外部で起こる現象も、すべて、彼の内面世界の現象に〈翻訳〉されて認識される。だから、最初の例で言えば、見えない炎に近づき苦痛を感じたのは、炎という存在に近づいたのが原因ではなく、そういうふうに行動してしまったことに原因があると、彼の意識は認識するのだ。

この段階での意識には、まだ〈私〉というものが明確にはない。
にもかかわらず、意識は肉体を維持するために、〈私〉と言う認識を持たないまま、いわば〈独力〉で、〈自分〉を守る〈意志〉を発生させている。これはかつてあるオーストリア人が言った〈無意識〉とは少し違う。ここで言う〈意志〉とは、ハードウエア(肉体)に組み込まれた、ハードウエア由来の、純粋に化学反応的な〈意志〉であり、それを私は〈基礎意志〉と呼ぶ。

暗闇で見えない炎に近づくことを拒絶するのは、生命にこの〈基礎意志〉があるからだ。

ちなみに、明らかに生命原理に反するような、あるいは、無意味としか思えないような行動の起因となる意志を、私は〈変奏意志〉と呼んでいる。変奏曲の変奏だ。これについてはまた別の機会に述べよう。

2001.12.13


HOME