*「クローバー・フィールド/HAKAISHA」



監督:マット・リーヴス/脚本:ドリュー・ゴダード/製作:J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク
アリオ西新井東宝シネマズにて

 オレは怪獣映画を、最高のパニック映画だと思っているが、そんなオレを完全に満足させてくれる作品が登場した。
 いわゆる怪獣映画は、怪獣が二匹現れて戦うようになって堕落した。それを怪獣映画オタクたちがもてはやして甘やかすものだから、どんどん堕落した。
 「平成ガメラ」シリーズは、映画としてやっとマモトな作りになって、リアルな恐怖を見せてくれた。
 しかし、この作品は違う。観客が、恐怖の中に叩き込まれ、その恐怖を疑似体験するのだ。
 全篇、登場人物が持つハンディ・ビデオで撮られた、という設定で押し切ったのが凄い。
 この手の「主観映画」はたいがい失敗するものだが、プロ中のプロが周到な準備を経てやると、ここまでの効果をもたらすのかと、驚嘆する。
 突然、想像もしなかった大惨事が発生し、それが進行する中、恐怖のるつぼに叩き込まれつつ、何が起きているのかまったく判らず、その恐怖の源泉の断片だけを目にして、とにかく友人を救い、逃げる。
 口では言い表せない恐怖。
 これを、ここまでリアルに、これ以上ないほどの臨場感で描き出した映画があったろうか。
 ありませんよ。
 だから、凄い。

 ハンディカメラで撮った、という設定が100%生きている。
 実際、いきなり巨大な得体の知れない怪獣のようなものが出現して近所を破壊し始めて、逃げようとするけど退路を断たれ、怪物に応戦する軍隊がやってきて戦闘に巻き込まれてしまったら、絶対こういう風な体験をするだろう。この作品はテーマパークで巨大映像を見て「疑似体験」する以上の臨場感で、大惨事に巻き込まれてしまう「疑似体験」が出来る。
 だから、途方もなく怖い。
 現場では、断片的な情報しか得られないのは、電車が止まってなかなか復旧しないまま待たされてイライラする駅での体験で感嘆に推測出来る。目の前でとてつもなく物凄い事が起きているのに、それが何で、どうしてこうなっているのか、当事者がまったく判らない。その恐怖。そして、一般人はそういう不条理な状況の中で死んで行くのだ。
 それを、もっともリアルに描き出した。
 情報の遮断の仕方、断片的にチラチラ見せる演出が小憎らしいほど上手い。
 登場人物たちが電気屋に入って、そこで観る「臨時ニュース」のリアルさと言ったら!

 開始からしばらくの、「登場人物たちの日常」がえんえん映し出される。それが思った以上に長いので、これが続くのはカンベンして欲しいなあ、と思いかけた時、それが始まる。それからはもう、ぶった切るように映画が終わるまで、息もつけない。
 明らかに、911テロのニューヨークの影響下にある。あの大惨事を正面から映画にしたものは、どうしても見る気が起きないのだが、このようにメタファーされた形でなら、観る事が出来る。
 よく判らない「指令センター」で首相とか自衛隊幹部とか生物学者が難しい顔をして討論する場面より、現場で大惨事に巻き込まれて右往左往する登場人物を追い続ける方が絶対に面白い。しかも、客観描写ではなく、主観なんだから、それだけリアルだ。
 さあ、これからの怪獣映画は作り方が難しいぞ。

 ハンディ画面でもう、自由勝手にパンもティルトもしほうだい。それに合成するのは物凄い技術だと思う。それをさらっとやってのけて、さらっと見せるのが凄い。フィックス画面でどんな凄まじい画面を見せられるよりも、ブレブレの臨場感溢れる画面の中で想像を絶する光景が展開される方が凄まじい。
 このタッチで行こうと決めたスタッフの感覚の勝利だ。
 しかも、限定されたフレームの中で処理すればいいのだから、その分製作費も安く出来たのだろう。モブシーンも昔みたいに実数のエキストラを揃えなくても、20人ほどを2000人に見せるのは容易いらしいし。
 フィルム・ルックな画面は、どう考えても35ミリのムービーキャメラで撮影したものだと思っていたので、あの巨大で重いパナフレックスでよくまあハンディカムの軽量感を出せたなあと思ったら、撮影には業務用のカムコーダーPanasonic HVX200 が使われたらしい。それにしても片手で持てる小型ではない。
 登場するのは、アメリカでは多少知られているのかも知れないが、オレはまったく知らない人ばかり。だから余計に、「マジに現場に落ちていたデジカメからテープを回収しました」という感覚で観られる。
 あの怪獣が何なのかまったく説明がないとかかんとか、馬鹿なコトを言うヤツがいるが、あの現場で、そんな事が判るはずがない。何がなんだか判らないまま大混乱に巻き込まれて想像を絶する大惨事に遭ってしまうのだから。その臨場感で押しまくる映画に、志村喬みたいな学者の記者会見なんぞを入れるのは愚の骨頂。学者たちが見解をまとめ終えた頃には、登場人物たちは死んでいるだろうし。

 この演出は、911のあの惨劇を捉えた膨大な「本物の映像」がなければ出来なかったんじゃないかと思う。また、観る側も、突然これを見せられたらブレブレの不快な映像に終始する駄作と思ってしまうかも知れない。しかし、我々は、あの惨劇を、生放送で見てしまったのだ。日本にいても、2機目のジェット旅客機が貿易センターに突っ込む光景を、生放送で観てしまったのだ。久米宏が「え?今映った映像はリピートですか?」と叫んだのを聴いてしまったのだ。
 テレビを通して観ていただけでも、911からしばらくは、何が起きるか、本当に怖かった。だから、ニューヨークで体験した人なら、アメリカ人なら、もっと直截に怖いだろう。自分だってあの場にいたかもしれないとどうしても思うんだから。
 それを絶対に想起させるから、この映画で感じる恐怖は、皮膚感覚で判る。昭和29年にゴジラ第一作を見た人が、皮膚感覚で怖いと思ったであろう、それと同じ感覚(といってしまうのは僭越だが)を感じる。
 マジに考えると、この怪物は何かのメタファーだし、この大惨事はイラクやアフガンで一般市民が感じている恐怖と同じだとか、いろいろなことが頭をよぎる。
 が……今はとにかく、主観で全篇を押し切ってしまったスタッフの決断と腕力とセンスを誉め称えたいし、その頭の良さにひれ伏したい。
 幸い、この作品のパート2が製作中らしい。ニューヨークで何が起きたのか、それを視線を変えて描くのだとか。これも大期待だ。

 5月2日に再見。
 二度目に観ると、ダレダレに思えた(わざとダレダレに演出してあるのかと思った)パニック以前のシーンも、それなりによく考えられて撮られている事が判る。
 怪物の攻撃開始からはもう、やっぱり息がつけない。高いテンションを保ったまま終わりまで突っ走る、この緊張感溢れる演出はやっぱり見事というしかない。
 ビデオカメラを構えるハッドはかなりの「KY」で、顰蹙を買うような事ばかり言うが、このキャラクターは憎めない。黙っていると怖くなるから喋り続けるしかない時ってある。いけない事を言ってると判っていても、喋っていなきゃいられない時がある。そういう感情を上手く見せている。
 そうしてやっぱり、911テロの影響がとても濃厚で、観ているこっちも、あの「悪夢」をどうしても想起する。911の生の映像を見ている時だって、「良く出来たハリウッド製のパニック映画」のように見えたし、実際、キャスターの誰かもそういうことを口走っていた。クライスラー・ビルが貿易センター・ビルと同じように根もとから倒壊して、物凄い煙が向こうの方からやって来る恐ろしい映像は、まさに911だ。
 ちらちらと見える怪物、というのが憎い。
 そして、やっぱり、憎たらしいほど、リアルだ。リアル過ぎて恐ろしい。本当にこういう出来事があって、素人の誰かが偶然撮影したビデオを見ているような錯覚に陥る。画面に映っているものはすべてリアルそのもの。だから、一番恐ろしいのは、何が起こっているのかまったく判らないままに右往左往して大パニックに巻き込まれる、と言う事だと実感する。近い将来日本を襲うであろう巨大地震に遭遇したら、これに近い恐怖を味わうんだろうと思うと、皮膚感覚で恐ろしい。
 そして……。
 アタシは昔から怪獣映画が大好きだが、それは怪獣が好きなのではない。むしろ、怪獣には興味はない。ゴジラであろうがキングギドラであろうがガメラであろうが、別に怪獣はどうでもいい。アタシは怪獣オタクでも怪獣マニアでも怪獣フェチでもない。怪獣という何かのメタファーが巻き起こすパニックが好きなのだ。だから、往年のパニック映画ブームは、アタシのためにあったようなモノだと思っている。巨大な力によって今住んでいるこの社会が大混乱に陥る、その様子を見たいのだ。
 だから「平成ガメラ」はそのへんのところを、当時としては画期的なまでにリアルに表現していたので、完全に心を奪われた。東宝の、怪獣愛好家たちに甘やかされたゆるい怪獣映画では絶対に味わえない、ひりひりするようなリアルさがあった。映画として極めて優れていた。自衛隊の動きもリアルだし、テレビニュースも本物のキャスターが出てきて、本物のセットでニュースをやるんだから、まったくリアルだった。「首都圏最終防衛ライン」なんて言葉、聞くだけでオルガスムスものだ。
 そんなひりひりしたリアル感が、この作品には、もっと強烈に存在する。いや、全篇がそれなのだ。ゴジラ第一作に少し感じられた、肌で感じるリアルな恐怖。それは戦争体験のなせるワザだったろう。この作品は、911があったが故に生まれたはずだ。それをハッキリと感じた。パンフにはタブーのように「911」にはまったく触れられていないが。
 だから、アタシなんかにとっては、怪物は最後まで正体不明、全貌もまるで判らないままのほうがよかったくらいだ。
 パニックが起きてからラストショットまで、テンションがピークのままでまったく緩まない、というのが凄い。本編が80数分という短さなのがよかったのだろう。
 パンフを熟読すると、「素人っぽいもどかしいキャメラワーク」にするために、ハッドを演じた役者が実際に撮影した部分がかなり多かったらしい。で、かなり大掛かりなセットを組んだり、パンしまくる画面にあわせて合成するのはやっぱり物凄い苦労だったようだ。で、全篇を片手でホールド出来るコンシュマー用に毛の生えたような小型デジタル・ビデオカメラで撮ってしまったというのも凄い。「おさえ」としてフィルムを一切回さなかったのだ。
 いろいろと大変だった裏話をパンフで知ることが出来て、大いに満足。
 しかし、昔のような、「キネコ」とはまったく画然としたビデオのフォルムへのトランスファー技術の進歩には驚嘆する。これなら、超大画面にする必要がなければ、ビデオカメラで撮って最終段階でフィルムにしてしまえばいいのだ。画質がまったくフィルム撮りと遜色がないのに本当に驚かされる。
 製作中らしい「パート2」、早く観たいっ!

Posted: (月) - 4 28, 2008 at 11:14 AM             |


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